やくざ分析に止まらず、やくざ分析を通じて、日本の社会の在り方までも解き明かす一冊
★★★★★
やくざ・右翼についての専門家である著者が、中世から現代に至るまでの、やくざが日本社会に登場する経緯ややくざの現状を、社会、主に政治権力との関係において分析、説明した本。とりたてて美化することなく、また、見下すこともなく、淡々と説明している。
この本の素晴らしいところは、巷にあふれるやくざの武勇伝的要素や、特異性にばかり焦点を合わせたヤクザ本とは違い、やくざを社会的集団として分析し、その性格や社会的立ち位置について社会的事象として評価しているところである。しかも、その分析は、やくざのルーツが顕れる中世から現代についてまでのものであるため、この本を読むことで、やくざと社会とのかかわりを通じ、中世以降の日本社会の在り方をも学ぶことができる。政治権力がいかにしてやくざを利用したか、社会的差別はいかにしてやくざを生むのか、やくざはなぜ社会において存在するのか、そして、それは現代においてどう変わってきているか。この本は初版が1974年なので、現代のやくざについて触れているわけではないが、これらに対する著者の答えは、今でも十分通用する普遍的なものであるように思う。
知ること
★★★★★
政治とヤクザの関わり合いが従来より云われて来ている(例えば、皇民党事件等)。かようにヤクザは無視できない存在である。しかし、ヤクザというものが如何いう経緯で生まれ、どのような変遷を辿り、現在の状況そして将来のかたちを概括的に知る機会がなかった。著者の見解はそのような疑問に答えるものである。オモテを知ることと同様、本書のような観点でウラを知ることは為になると思う。
暴力の歴史
★★★★☆
猪野健次『やくざと日本人』ちくま文庫
日本のやくざ、アウトロー研究の第一人者である猪野さんのやくざ論。歴史のなかで果たしていた役割に比べると、やくざや荒くれ者たちの研究はまだまだ少ないようです。日本人は「やくざのことを知らなすぎる」とのこと。とても勉強になりました。
ただ、ほんとうに戦国末期のカブキ者まで系譜学的に遡れるのかどうか、すこし疑問に感じる点もあります。いつの時代どんな世の中にも、暴力をこととする集団は存在したと想定できるのだから、特定の集団にやくざの根源をもとめる議論はそれほど重要ではないような気がするのです。それよりも、各時代のあらくれものがどのような史料にどのような姿で登場してくるか、それを各時代の史料に基づいて論じてる箇所のほうが興味深く読めました。時の権力との癒着関係なんか、とっても面白いものがあります。