周回遅れの日本
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イラク戦争の開戦に当たっては、フランスとドイツは再三にわたるアメリカの要請にも関わらず、反対に徹したことは記憶に新しい。もし仏独両国がアメリカに同調して行動していたらどのような結果を迎えていただろうか? 著者のヴェドリーヌは、イラク開戦時のフランスの外相ドビルバンの前任者であるが、豊富な経験に裏付けられたリアリストでもある。
本書を読むと、アメリカに対する姿勢、EUに対する考え方や国家観などフランスも決して一枚板ではなく、極めて多様な思想があることがわかる。ソ連の崩壊後、「歴史の終焉」が宣言される一方、「文明の衝突」の危機も警告された。今や歴史は終焉せず、ますます多極化した複雑で不安定な国際情勢が続いている。そしてヨーロッパではEUは成立したが、「ヨーロッパ合衆国」は幻に終わった。国連やEU、またNATOやWTOのような多国間の防衛や経済の協調・調整のための国際的な機関があるが、結局のところ国家というアイデンティティをもった組織が今後とも重要であることを著者は指摘する。そして最終章の「幻想から現実へ、イデオロギーから「政治」へ」はまさにリアリストの目で見た国際政治への現実的な提言で傾聴に値する。
ところで、我が国では政権交代が実現したものの、国際政治の荒海の中に乗り出していくには誠に危うい感じが否めない。「友愛」だけでは国際社会で生き残っていけない。考えてみると、ソ連崩壊によるイデオロギーの終焉を未だに我が国では深刻に受け止めてこなかったのではないだろうか? 周回遅れの日本の姿が彷彿として浮かんでくる。