30ページもあるプロローグでは、翌日の新聞を入手できたため、1966年2月に羽田沖で起こった航空機事故を免れた、という著者自身の体験から始めて、過去へ情報を送るための物理学の解説をしている。ひと言で言うと、超光速粒子が存在すれば、それが可能である。そして第1章であらためて、時間とは何か、因果関係とは何か、タイムマシンとは何かといった順で話が進む。小説でタイムマシンを扱った H.G. ウエルズと、M. ラインスターのタイムトンネルなどを例にあげて、因果律とタイムマシン小説での苦心に触れている。第2章で時間の逆行の可能性について物理学の視点で解説し、第3章で超光速粒子タキオンについて述べている。第4章は超光速粒子の存在を前提としたメタ相対論について説明し、第5章で超光速現象を解説して、短いエピローグで全体をまとめている。
時間の逆行のところに、いくつかの4コマ漫画を引用したり、J. ジョイスの小説『フィネガンの追悼会』が出てきたりと、著者の物理学の世界を飛び出した一般教養を散りばめていて、いつの間にか著者のペースに引き込まれてしまう。いつもながらの都筑マジックである。元の本は30年前の執筆のため、現代物理学のクォーク理論などで新たに解明された点を、少し本文中に括弧書きで補ってある。本書を見ていて、30年前の時点ですでにパリティ保存則が破れ、当時の近代物理学にもほころびが生じ始めていたことなどを知った。古典物理学、近代物理学、そして現代物理学、さらに近未来の物理学まで見渡すには、それこそタイムマシンが必要かもしれない。J.ホーガンの小説『未来からのホットライン』にもひと言触れてほしかった気がする。(有澤 誠)