拉致問題が「政治目的」になっていないか!?
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蓮池透さんが、2010年3月、「家族会」から除名された。
いつかこうなるのではないかと危惧していたが、
蓮池氏は家族会を批判することはなく、
「自分がいなくなることで拉致問題が進展するなら、それでいい」
と言ったと報道されている。
本書は、それまでギクシャクしていた家族会、救う会との「溝」を
明確にさせた1冊でもある。
家族会・救う会と絶縁し、彼らから裏切り者呼ばわりされるように
自ら舵を切ったのはなぜか……それが分かりやすく、
慎重にことばを選びながら書かれている。
家族会、及びそれを牛耳る救う会は、
「拉致問題」を、北朝鮮の体制打倒等の政治的信条や、
「核・ミサイル」などの国家政策に結び付けて「制裁」を政府に要求してきた。
あたかも圧力団体のように……。蓮池氏はそのことを批判する。
拉致問題は政治的目的と、いかなる関係もない。
家族会は、政治団体でもなければ国家の政策に口を出す組織でもない――と。
そして「救う会」については、こう言い切る。
「救う会」は、北朝鮮の体制打倒という政治信条の実現に、
拉致問題と家族会を利用している――。
いま、「拉致問題」はナショナリズムと結びつき、
それこそ、「何が何でも北朝鮮討つべし」的なヒステリックな論調さえある。
これで拉致問題の解決ができるだろうか。
少し冷静になってほしい、というのが本書の基本的な主張である。
救う会、家族会からは「裏切り者」「北の代弁者」と呼ばれる蓮池氏は、
「私は右でも左でもない。この運動が、被害者の救出を第一とするもので
あってほしいだけです」
と静かに言う。批判の中、こういう意見をはっきり言った勇気に敬意を表したい。
こういう意見を切り捨てる「家族会」は、複眼的思考ができなくなっているように思える。
家族会や救う会は、植民地政策をすべて肯定し、中国を悪し様に批判する。
そのとおりかもしれないが……
「あなたたたちの目的は被害者救出ではなかったの?」
と思わせる言動が目立つ。
それらのことと「拉致問題」は切り離して考えるべきではないかと思わせてくれる1冊だ。
拉致問題の現状と本質を考えるためにも、意味のある一冊だと言えるだろう。
今後の著者に、ただただ期待するのみ
★★★★☆
今現在においての北朝鮮と拉致に関する問題に、
とても冷静で正しく切り込んでるなと、純粋に思えました。
現在の北に対する脅威と制裁の一辺倒に苦言を呈する本でしょうか。
ただ、この著者に対する「貴方のとこは家族が戻って来たから言えるんでしょう」という、
周りからの声もまた事実だし、それも理解ができます。
個人的には、家族はやはり感情的になって当然だし、一定の同情をしてしまいます。
2002年の5人帰国も、当初は一時帰国が条件だったわけで、
それを家族会を中心とする強い要望で北との約束を一方的に放棄し、
それが原因で以後こじれました。結果、5人に関してのみ完全帰国を遂げました。
あの時にまだ家族会の上層にいた当時の著者なら、
家族を北に帰すなんて事に賛同できたはずがないでしょう。
それは、今でもまだ家族が帰って来ない人の切実な想いと同等では。
結局は、立場が変わっただけで後出しのように理想論を書けるという感覚は拭えません。
今後は是非ともブレずに、正しい主張をし続けていって欲しいです。
一方で、拉致の裏で暗躍する様々な団体への危惧はとても秀逸だと思います。
著者の持つような真意を汲み取って、マスコミ等が本気で変わる事を願わずにいられません。
拉致問題と解決法を一から見つめなおす
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本書は、家族会の事務局長をかつて務めた著者が、行き詰まった拉致被害者帰国の打開策と家族会の内情を、自らの言動の反省を踏まえつつ吐露した、告白するには非常に勇気のいる内容となっている。「左右の垣根を超えた闘いへ」という副題通り、拉致問題解決の方法や家族会が、特定のイデオロギーを主導する者に染められてしまっている現状を乗り越えるべき課題とし、もう一度政府や国民全体で議論を呼び起こし、被害者救出への道を模索している。
かつてマスコミをにぎわした拉致問題もいまやほとんど耳にしなくなった。打開策がたやすく見つからないのと同時に、家族会の意見に沿わない報道をするならば、激しく攻撃されるからだ。結局家族会の意向をうかがってばかりいると、世論には北朝鮮に対して「経済制裁」、さらに「北朝鮮打倒」という、拉致被害者救出という目的とはかけ離れた主張までまかり通ってしまうことになる。それではますます解決につながらないと、著者は「行動を伴う対話」を積極的に重視する。
著者のように拉致被害者の帰国を果たせた家族とまだ果てせていない家族、その違いがもたらす微妙な温度差を記すあたりは、かなりの苦悩がみてとれる。また、めぐみさんのものと言われた遺骨のDNA判定をめぐる不可解ないきさつは、もっと世に知られるべきであろう。
本書は、もはや聞き慣れた「拉致問題の解決なくして、国交正常化なし」という言葉の内情や、そもそも「何を持って拉致問題の解決と言えるのか」という原点から立ち返るきっかけを与えてくれる。もう一度一連の出来事を振り返り、「家族会」「政治家」「マスコミ」「国民」は、これからどう難問に対応するべきなのかを見つめなおす機会が来たのではないだろうか。著者の貴重な発言によって、少しでも風穴が広がっていくことを期待する。
拉致問題の現在。
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蓮池透氏。いわずと知れた1978年に北朝鮮に拉致された蓮池薫氏の実兄。
2002年9月17日、小泉首相が訪朝し締結された日朝平壌宣言により、
北朝鮮が日本人拉致を認めたことを切欠に急展開した拉致問題が、日本、北朝鮮、
あるいは関係国やどのように揺り動かされ、そして現在、どのような諸国の
思惑により交渉が膠着しているか。
拉致被害者の家族として、そして家族会を事務局長も務められた立場から冷静な
視点で見つめ直し、北朝鮮の態度を頑なにさせた日本政府の失態を踏まえ、
北朝鮮との交渉へ向けどのようなステップへ進めるか、そして日本国内での拉致
問題の議論や運動をどのように動かして解決への道筋をつけるか、という流れで
章立てされています。
取り扱う問題の性質上、推論に基づき議論を重ねている面が多々見られますが、
それでも本書は蓮池氏にしか語れなかった内容として仕上がっており、最近は
話題に上ることも少ない状況となってきた拉致問題の現状を知るための良書であると
思います。
いまこそ蓮池透さんの勇気ある発言に耳を傾けるべき
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本書は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に拉致され02年に帰国した蓮池薫さんの兄透さんが、日本政府やマスコミ、知識人が拉致問題を政治利用して北朝鮮への憎悪や恐怖、敵愾心を植え付けて強硬一辺倒の世論を作り出してきたことを強く批判し、制裁のような圧力ではなくて対話こそが現在の閉塞状態を打開して日朝問題を解決するために必要であることを強く訴える。
自らが拉致被害者家族として多大な苦悩を経験し、拉致被害者家族連絡会(家族会)の事務局長を務めた透さんは、初めは北朝鮮強硬派の先鋒であったが、自分たちが極右政治家や「救う会」によって洗脳され利用されていることにしだいに気づき始める。そして「家族会」や「救う会」の活動やマスコミ報道が拉致被害者救出という本来の目的から変質してしまい、国民に偏狭なナショナリズムを植え付けたり、甚だしくは「拉致ビジネス」という金儲けの手段になってしまっていることを鋭く見抜き痛烈に批判する。
わたしは、自ら逆境に立たされながらも世論や感情に流されず理性的な透さんの勇気ある発言を強く支持し拍手を送りたい。
透さんは近年全国各地で講演を行ない多忙を極めている。本書を上梓した後の講演はさらに理性的、建設的なものである。
『わたしが裏切り者と呼ばれている蓮池透です』
で始まった今年の7月10日の日朝協会主催による講演会は「植民地支配の反省に立った展開を」という題名で、在日朝鮮人の人権問題にまで言及した実に驚くべきものであった。
http://www.shibano-jijiken.com/NIHON%20O%20MIRU%20JIJITOKUSHU%2018.html
わたしたちは拉致問題で北朝鮮を非難する前に、拉致という不幸な事件が起こってしまった原因、背景について深く考察すべきではないか。そして敵対関係からは何ら建設的なものは得られず問題は解決しないことを学ぶべきである。『近くて遠い国』を『近くて親しい国』にすることこそ拉致、核、ミサイル問題の唯一かつ最善の解決策である。