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現代の戦争被害―ソマリアからイラクへ (岩波新書)

価格: ¥735
カテゴリ: 新書
ブランド: 岩波書店
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米軍批判の書 ★★★★☆
 1951年に生まれ、外務省・日本赤十字社に勤め、国際人道法を専攻する著者が、冷戦後に主として米軍の関わった戦争による民間人の犠牲に焦点を当てて、2004年に刊行した本。1992年に世論に押されてソマリアでの部族間抗争に介入した米軍は、国連とアイディード派の争いに巻き込まれ、米兵の遺体が冒涜される映像によって、ソマリアから手を引き、以後非国連主義を強めていく。ボスニア紛争においても、米国をはじめとする国際社会は適切な対応をとることができなかった。しかし、米国の「広告代理店」の宣伝による「民族浄化」批判の世論に押されて、セルビア批判が強まる中、アルバニア人武装組織KLAはコソボ紛争を激化させることによって、1999年国連憲章に違反するNATO軍の「人道的介入」を誘うことに成功する。その際、米軍は自軍兵士の犠牲ゼロを目ざして、空軍のハイテク兵器を最大限に活用して敵のインフラを破壊する戦闘方法を、本格的に採用したが、それはしばしば誤爆を引き起こしている。またこの軍事行動は、かえって難民を増加させ、米国政府要人と結託した米国企業のコソボ進出をもたらした。さらに米国は、かつて自らが育てた勢力に足元をすくわれる形で、アフガニスタンやイラクに対テロ戦争を仕掛けたが、多くの誤爆や捕虜虐待が明らかになっている。またこの間、米軍が残酷な「特定通常兵器」を大量使用していることも、戦争被害を拡大させている。にもかかわらず、日本政府は米軍への追随をなし崩し的に強めているのが現状であり、著者はこれを強く批判する。本書では冷戦後の戦争がコンパクトにまとめられ、米軍の問題性が正当に批判されている。ただし、冷戦以前の戦争被害との比較がまとまった形で無く、米国にばかり責任を帰しすぎている感もある。一つの転機であるはずの湾岸戦争の記述が少ないのも、気になる点である。
単独最強軍事国家アメリカの独善的戦争がもたらした罪のない世界の人々の死 ★★★★☆
 アメリカの唯我独尊的な、矛盾に満ち満ちた世界での行動を、ソマリアの悲劇から順に歴史をたどって解説してくれる良書である。
 現代の戦争というのは、直接的間接的に、もはやアメリカなしでは考えられない状況になっており、国連という世界を束ねるはずの機構か、アメリカという単独の最強軍事国家に前にはもはやなんのコントロールも持ちえなくなってしまっている現状の背景と現状がよく理解できる。国連の合意を無視するアメリカに対して、誰が制裁を加えようなんていうことができようか?
 アメリカはどこへ行くのか?そしてその国に完全に従属してしまったわが国の将来はどうなるのか?
アブグレイブへの道 ★★★★☆
表題には「戦争被害」とあるが内容は、ソマリア、ボスニア、コソボ、アフガニスタン、そしてイラクに至るアメリカの軍事介入である。被害はその過程で現われる。第一章でまずアメリカの国際協定の無視と唯我独尊ぶりを指摘した後は次々に生起し世界を混乱させてきた戦争の経過がたどられる。およそ国際紛争で単純に割り切れるものはないがとりわけボスニア、コソボの紛争は複雑極まりない。ここにその経緯が簡明に示されているのはありがたい。
周知のようにアメリカ軍は世界に冠たる軍事力を持っている。それでも人命の損傷なしに戦争を遂行することはできない。そこでアメリカの戦略では自軍の兵士の犠牲を最小限に抑えるのが至上命令である。これに比べれば兵器の損耗は問題ではない。敵兵、一般市民の死傷はカウントしない。尊重されるのは米兵の生命である。
圧倒的な武力の優越にもかかわらずアメリカの兵士がイラクではむしろ絶望的な状況に置かれ、過剰な攻撃を繰り返す姿がここにある。速戦即決によって早く戦果を収めるとなればそうなることは目に見えている。(かつての日本軍もそうだったのではないだろうか。)疑いを持たずに戦闘を続けるには少なくとも「味方に正しき道理あり」と思い込まねばならない。市街を壊滅させ、市民を戦闘に巻き込むアメリカ軍兵士にそう思い込むことができるだろうか。彼らは個々人としも堕落せざるを得ない。アブグレイブについては多くのことが語られたがいまだに全貌は見えていない。ワシントン・ポスト紙の報道でかいま見る(189、190頁)だけでも彼らの落ち込んだ奈落の深さがしのばれる。
勉強させてもらいました。 ★★★★☆
9・11テロからイラクまではおさらいをする感じでしたが、ソマリアやコソボの紛争の経緯などは、米国の動きを通して勉強しました。このへんは本当に分かりやすくて素晴らしいと思います。

でもタイトルは「現代アメリカの戦争」とかにした方がいいんじゃないかな……。
アメリカのいわゆるゼロ・エミッションが現代の一般民衆の戦争被害を拡大しているという点から出発して、いつの間にか「現代の戦争被害」という広範な次元にまで話が拡大しており、ちょっと自分の言いたいことに引きずられて飛躍してしまったのではないかという印象でした。

自衛隊派遣に対する評価も、ごく自然で理解しやすいのですが、アメリカ追従なのでいけないという結論先にありきで、もう少し公平に見てみてもいいのではないかと思います。

アメリカが嫌われる理由はここに ★★★★★
著者の本を読むのはこれで4冊目(レビューは2冊目)となるが、毎回新たな視点を提供してくれる。

タイトルは「現代の戦争被害」ではあるが戦争被害だけを論じたものではなく、むしろ全体を通して浮かび上がってくるのは「アメリカはこう戦争する」という内容である。

といっても「まずミサイルでレーダー網を破壊し、次に攻撃機を飛ばし・・」という戦術論を語っているのではない。アメリカが己の国益を追求した結果、常に世界のどこかで戦争をしている極めて好戦的な国になっている姿を冷静に、そして説得力をもって論じている。

アメリカの新聞や雑誌ではときどき、なぜアメリカは嫌われるのか?という問題提起や議論が行われるが、その答えは本書を読めばよくわかる。ホワイトハウスや国務省が立派な声明を高らかに謳いあげる一方で、人権や国際法を無視してでも力づくで世界の秩序をアメリカに都合のよい形に変えようとするエゴがソマリア、旧ユーゴ、イラクなどの戦争を通して具体的に描かれている。

「米国の真の狙いがコソボにおける平和や自由の確立よりNATOの信頼性強化にあったのではないかと思えてくる」(P.115)
「国連の決議に米国が従うことは、米国より高い権威が存在することになり、それは、冷戦崩壊後の圧倒的な超大国である米国にとっては受け入れ難いのだろう」(P.132)といった見解も裏づけがなければ感情的な「反米本」と重なって見えるが、本書の価値はそうした認識に十分納得するだけの事実関係の整理と豊かな国際人道法の知識が凝縮されている点にあるといってもいいだろう。

重いテーマにもかかわらず研究者にありがちなもってまわった表現はなく、具体例に富み、読みやすい。