でもタイトルは「現代アメリカの戦争」とかにした方がいいんじゃないかな……。
アメリカのいわゆるゼロ・エミッションが現代の一般民衆の戦争被害を拡大しているという点から出発して、いつの間にか「現代の戦争被害」という広範な次元にまで話が拡大しており、ちょっと自分の言いたいことに引きずられて飛躍してしまったのではないかという印象でした。
自衛隊派遣に対する評価も、ごく自然で理解しやすいのですが、アメリカ追従なのでいけないという結論先にありきで、もう少し公平に見てみてもいいのではないかと思います。
タイトルは「現代の戦争被害」ではあるが戦争被害だけを論じたものではなく、むしろ全体を通して浮かび上がってくるのは「アメリカはこう戦争する」という内容である。
といっても「まずミサイルでレーダー網を破壊し、次に攻撃機を飛ばし・・」という戦術論を語っているのではない。アメリカが己の国益を追求した結果、常に世界のどこかで戦争をしている極めて好戦的な国になっている姿を冷静に、そして説得力をもって論じている。
アメリカの新聞や雑誌ではときどき、なぜアメリカは嫌われるのか?という問題提起や議論が行われるが、その答えは本書を読めばよくわかる。ホワイトハウスや国務省が立派な声明を高らかに謳いあげる一方で、人権や国際法を無視してでも力づくで世界の秩序をアメリカに都合のよい形に変えようとするエゴがソマリア、旧ユーゴ、イラクなどの戦争を通して具体的に描かれている。
「米国の真の狙いがコソボにおける平和や自由の確立よりNATOの信頼性強化にあったのではないかと思えてくる」(P.115)
「国連の決議に米国が従うことは、米国より高い権威が存在することになり、それは、冷戦崩壊後の圧倒的な超大国である米国にとっては受け入れ難いのだろう」(P.132)といった見解も裏づけがなければ感情的な「反米本」と重なって見えるが、本書の価値はそうした認識に十分納得するだけの事実関係の整理と豊かな国際人道法の知識が凝縮されている点にあるといってもいいだろう。
重いテーマにもかかわらず研究者にありがちなもってまわった表現はなく、具体例に富み、読みやすい。