著者はセルビア側、アルバニア側それぞれの対象に直に調査し、自分の目で現状を見つめ、どちらにも肩入れする事のない中立的な視点からこの書を書き上げた。「セルビアも被害者だ」と声高に主張するだけではお互いの罪状を相殺するだけの結果となる。KLAがマフィアと深い関係にあった事やセルビア人もアルバニア人もそれぞれ虐殺を行った事なども広く知られるようになった現在でも、アルバニア人はなぜか正義の側にある。それは内乱に至った経緯やNATOとの関係など複雑な情勢のなかで作り上げあられたものである。
よく取材し、また対象に幻惑されることなく、コソボを巡る現状を淡々とした筆致で記している。付け加えるとすれば、旧ユーゴスラビアの歴史的な事実への考察と論及が少ないところか。アルバニアがユーゴと別れて独立した事や、ユーゴとアルバニアがそれぞれ独自路線を採った事、クロアチア人であったチトーとセルビア人との連邦内における関係などもコソボの歴史的経緯や現状に大きく関わっている。そもそもなぜコソボがユーゴスラビアでそのように位置にあったのかということへの論及がなければなかなかセルビア人との関係が理解しづらいのではいかと気になった。