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東京裁判を正しく読む (文春新書)

価格: ¥840
カテゴリ: 単行本
ブランド: 文藝春秋
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「史観」は思考停止に過ぎない ★★★★★
東京裁判史観なるものがあるとして、それを受容しようが批判しようが、いずれも東京裁判そのものとは関係ない。
「史観」と呼ばれるものは大抵そうだが、東京裁判はまさに裁判という事実から派生した「解釈に対する意見への批判」のような事実から遠ざかった言論が、歴史観として流通して支持されたり反発されたりして、それだけで大きな言論空間をつくってきた。一次資料を読み解くという歴史への正しいアプローチが、政治的な議論に即座に取り込まれてしまうのが、東京裁判を語る難しさと言える。
二人が語るように、裁判のある部分はフェアに、ある部分については政治的に進められ、戦争の総括と戦後の開始のため、日本も連合国も裁判を必要とした。正義か政治かという無茶な二元論を嫌い、どこがフェアでどこがアンフェアであったのか緻密に考えることが、本書の目的だと言える。
ただし、よく語られる「戦犯と、その量刑の妥当性」についての本ではない。本書で2人は裁判が開始してから結審する裁判の一連の手続きを一次資料に基づいて、冷静に読み解こうとする。それゆえウェッブ、レーリンクやキーナンなど、判事、弁護人、検事についての簡単な予備知識がなければ、難解な対談になると思う。だが、判事、弁護人の個々の個性、それぞれの人間関係やその亀裂について、東京裁判の論者としては若手である二人が冷静に一次資料から分析する姿勢には好感が持てるし、こういう込み入った議論が新書で提供されることも、今後の東京裁判理解にとって意義深いと思う。
読んでいて、読者はどうしてもこの二人が右派か左派か分類したくなってしまい、そして読み進めるとその分類が不毛であることに気付かされる。二人にとって、無数に議論された史観が曇らせた東京裁判の事実を明らかにすることが使命であり、史観を乗り越えるのは新たな史観ではなく厳密な事実だけである。