前置きが長くなったが、「東京裁判史観」などというようなことが言われるなか、まず必要なのは「歴史的事実」、つまりこの多くの問題をはらんだ裁判の「詳細な事実」を知ることが決定的に重要だと思うから。
無論、あらゆるやり取りの記録はあるが、それを全部読むことは現実には不可能。だから、幾度かは実際に裁判を傍聴した経験があり、相当な量の資料に当たりつつ、新書2冊というコンパクトな形で「裁判の実像」をかなり上手く書き込んだ本書は、その概要を知ろうという積極的な読者の要望をかなりの程度満たしてくれる書として、僕は高く評価する。
無論、欠点はある。裁判と並行して進められた占領政策に触れていないのは、特に天皇の地位問題で惜しまれる。が、本書の意義を否定するほどのものではなかろう。
当時の日本人の心情、被告の人物像、スガモ・プリズンの生活、敗戦国と戦勝国でトイレすら分けられ
ていた法廷。そして「法」の名の下、戦勝国が敗戦国統治を有利に進めるために様々な裏工作が進む。
上巻は、終戦から東京裁判の開始、主に検察側の立証段階までが書かれている。
文体が少し古いが、コンパクトにも拘らず知られざる事実までも読めるので、入門書としてお薦めする。