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重力の再発見―アインシュタインの相対論を超えて

価格: ¥2,520
カテゴリ: 単行本
ブランド: 早川書房
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新しい観点の宇宙論 ★★★★☆
ある程度宇宙論に興味を持ち、相対性理論や量子力学も趣味のレベルで良いので知識をもって読むと面白いでしょう。
さらに何にでもいつも健全な疑問を持ち続ける方には特におすすめ。
この重力論が正しいかどうかはわかりませんが、今ダークマターでわからないことを解決できるひとつのアプローチであることは間違いありません。
宇宙の疑問はいつもこのようなチャレンジ精神で理論を提案し否定される連続ですが、千にひとつ当たりを見つけつる学者がいるから面白いのでしょうね。
専門家からみるとこじつけに見える部分もあると思いますが切り口が面白いので☆4つ
勇気ある試み ★★★★★
ジョン・モファット、デンマーク出身でカナダのトロント大学の名誉教授が最近出した本の翻訳。アインシュタインの重力理論、一般相対性を書きかえた修正重力理論(MOG)を練り上げて、現代宇宙論のいくつかの難点を回避し、かつダークマターやダークエネルギーなどの恣意的な仮定をできるだけそぎ落とした解決を目指そうとする野心的な試みが展開されている。そのような試みは大変勇気のいることだ。なぜなら、学界では長らく無視されることが確実であるうえ、成果が出なければ学者としてのキャリアもまず失敗に終わることが明らかだらだ。

この本、最初は重力理論の歴史的なおさらいから始まり、通俗的なポピュラーサイエンス本の風情だが、第二部(第4章)で「ダークマター」(観測宇宙論のデータと、一般相対論による予測とのギャップを埋めるために要請された、余分な重力を生み出すとされる見えない物質)が導入される頃から、だんだんと著者の舌鋒が鋭くなってくる。そして、インフレーション宇宙論に対抗する著者の第一弾、「光速可変理論VSL」が紹介される(提唱は1992年)。初期宇宙では、光速が今よりもはるかに大きかったが、短い時間の後に相転移で現在のような値になったとする説である。最近の量子重力理論の文脈でも同じような提案をする人が出てきたが、モファットの仕事をあとで知って驚愕したとのこと。いずれにせよ、これが相対論の基本原理から逸脱することは明白だ。

モファットの第二弾は、他に光速可変理論を提唱する者が現れた後に発表されたバイメトリック重力理論。これは、一般相対性では光速も重力波も速度が同じであるのに対抗して、「光速は一定で重力波が時間とともに速さを変える座標系」と「光速が変わるVSL座標系」という二つの基準系(したがって、重力理論で基本となる計量、メトリックが二つになる)を使う重力理論(1998年)である。

その後、WMAP(宇宙背景放射の精密な測定をおこなうために打ち上げられた衛星で得られた画像が有名)などの、新しい観測宇宙論のデータをふまえたうえで模索した結果、モファットは2004年に有望な感触がある修正重力理論MOGにたどり着く。その要となる第一の特徴は、重力定数が変化するというアイデアだ。太陽系程度のスケールでは変化しない重力定数が、天文学的に大きな距離(例えば銀河や銀河団に渡る)では変わって、ニュートンの逆二乗則による重力よりも強い重力を生むと考えれば、ダークマターなどは不要ではないか。第二の特徴は、「ファイオン場」という、物質と相互作用する新しい場の導入で、これは自然界の四つの力に加え、第五の力を伝える粒子を仮定することに相当する(量子論での常識として、場と粒子は同じ現象の両側面である)。大まかにいえば、このファイオン場はある種の反発力を生み、重力定数の変化と相まって、大きなスケールでのより大きな重力を生むことになる。

このファイオン場の仮定は、正直言って軽い失望を感じさせる箇所だ。素粒子論では今までなかったボソン粒子が、重力のためだけに新たに導入されるという、アドホックな観が否めない。ダークマターのアドホックな導入とどう違うのか、という疑問が生じるだろう。おそらくそのことを意識して、モファットは第五部(第11章以下)でラストスパートをかける。物理理論の値打ちは、どれほど仮定が少ないか、そしてデータに合わせるために選びうる自由パラメーターがどれほど少ないかにかかってくる、と彼はいう。彼のMOG、重力場の方程式を解いて得られる重力法則は、(1)ファイオン場と物質の相互作用の強さと、(2)修正された加速法則が作用する距離の範囲という二つの自由パラメーターに依存すると考えられた。しかし、その後の研究の進展によって、いずれもMOGの方程式を解くことで値が決まり、自由パラメーターとして値を選ぶ必要がないということが明らかになった、というのだ(300ページ)。ファイオン場は、ダークマターのように方程式の外から導入されたものではなく、方程式自体の中に組み込まれているうえ、(1)も(2)も実はパラメーターではなかった、というのだ。この本の中には方程式が提示されてないので、読者にはこの主張を検証するすべがないので、彼の専門的な論文に当たるほかはないが、もし本当ならば、確かにめざましい成果だ。

いずれにせよ、本書の価値は、これまで「主流研究」の陰に隠されて光が当たってなかった重力研究をいくつか掘り起こして解説し、予測力のある理論にまでまとめ上げたところにある。これが「おもて」研究になりうるか、「うら」研究にとどまるかはわからないが、科学研究の実態としては「健全な姿」をかいま見せてくれたように思う。読み応えのある本だった。
修正重力理論の決定版? ★★★★★
近年の宇宙に関する観測データが、あまりにもアインシュタインの理論と食い違っているということから、一般的には、(まだ観測されていない)ダークマター/ダークエネルギーで説明する動きがありますが、著者はそれらを仮定せず、アインシュタインの理論を修正すべき、という立場を取っています。いまのところうまくいっているようです。ダーク××どころか、ブラックホールもないのでは、とまで言っています。

著者のよりどころのひとつが、100年前のエーテル騒動と、ダーク××がそっくりであるということですが、確かにそうですね。

一般向けの著書なので、数式は使われておらず、もっぱら自然言語で書かれていますので、読みやすいです。記述はフェアであり、自身の理論でまだ解明できないことも、きちんと書かれています。自身の理論の正当性を確かめられる実験も提案しており、それにより、仮に自身の理論が否定されても、それはそれで科学の進歩である、としています。理論は実験で検証されるべき、という立場を一貫して保っています。
the 教育的学者 ★★★★★
三年をかけた・・・と仰るだけある優れた教養書。

「ニュートンを悩ませたのは、絶対空間という概念だった。
他の座標系と区別される、等速で運動し回転していない慣性系のことで、
すべての物理法則はこの絶対空間において記述される。・・・
ニュートンは、空っぽの宇宙に物体が一個だけあったとしても、
その物体は慣性を持つ、つまり、外から力が加わらなければ
一定の速さで動きつづけるか静止状態を保つ傾向があると主張した。
ニュートンが絶対空間に重きを置いたのは、もっぱらこのためだった。
絶対空間にある物体の一次的な性質は慣性であって、
重力は普遍的ではあるものの二次的な性質だと考えたのだ。
1689年にニュートンは、バケツを使った有名な実験によって絶対空間の考え方を証明した」

「マッハは、もし宇宙に物質がまったく存在しないとしたら
バケツの水面がくぼむことはないだろうと主張した・・・
マッハは・・・慣性系という概念を、宇宙空間にある残りの全質量と明確に関連づけた。
つまり、宇宙に存在する質量が、ある物体の慣性質量を決定するということだ」

「ニュートン力学では、慣性質量は空っぽの宇宙に一個だけ物体を置いた場合の性質とされていた。
一方、重力質量は、物体の系が持つ性質だ。だがマッハによれば、
物体の慣性質量は一個の物体が持つ独立した性質ではなく、ある物体の系における互いの加速によって決まる。
アインシュタインはマッハに強く影響を受け、古典力学における運動法則がどのようなものであっても、
慣性質量と重力質量は等価であるという、等価原理を導入した。
1913年にアインシュタインはマッハに手紙を書き、ニュートンのバケツ実験に対するマッハの解釈を支持して、
それが自分の考えた新たな重力理論にも合致すると伝えた。
さらに、地球上できわめてよい精度で検証されている等価原理として、マッハの原理を一般相対論に組みこんだ。
アインシュタインはマッハに倣い、ニュートンによるバケツの回転実験における水の挙動は、
宇宙にあるすべての物質の重力によって決まると主張した。
一般相対論を編み出している間ずっと、マッハの哲学に強い影響を受けつづけたのだ」
「物体の慣性質量は重力質量と等しい。・・・
ニュートンは自らの重力理論の中でそれは正しいと仮定しただけだったが、
アインシュタインは等価原理を、構築中の重力理論の土台として使った。
ニュートンと違ってアインシュタインは、等価原理を重力の基本的根本的原理として捉えたのだった」

「マッハの原理とは、物体の慣性質量は宇宙に存在するすべての物質によってもたらされるというものだ。
・・・アインシュタインも一般相対論にマッハの原理を組み込もうとしたが、結局はあきらめた」
「アインシュタインは、物体の慣性的性質と重力的性質をニュートンとは違う形で捉えた。
それらは同じもので、時空の幾何から生じるのだと考えた」

一般相対論(アインシュタインの重力理論)
重力の概念を、ニュートンの言う万有引力から、物質とエネルギーによる時空の幾何の歪みへと変えた。
修正重力理論の試み ★★★★★
宇宙には大量にDark Matterが存在するはずなのであるが、いまだに見つかっていないし、その正体も不明である。1世紀くらい前には物理学者はEtherの存在を信じていたが、結局そういうものは存在しないという現実を受け入れざるを得なかった。NewtonやEinsteinの重力理論を認めれば、Dark Matterが存在すると信じざるを得ない。この本の著者は、MOGという修正された重力理論を提唱する。その大きな特徴は、重力定数が定数ではなく変化する点と、第5の場であるファイオン場の存在である。一般相対性理論では、Dark Matterの存在を要請せざるを得ないし、紐理論では見えない高次元を仮定することを強いられる。この理論では宇宙の始まりに特異点を仮定する必要もなく、宇宙の加速膨張も自然に説明される。重力理論については他にもSusskindの紐のLandscape理論やSmolinの量子重力理論なんかもあり、最終的にどれが生き残るのかは今後の展開を待たねばならないだろう。宇宙とか重力絡みになると、一刀両断にどれが正しくてどれが間違っているというのは難しく、我々素人としては気長に成り行きを見守るしかないというところだろう。