やっぱり乃木希典は、このうえなく無能な指揮官だった
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「乃木希典」将軍を無能呼ばわりすると、必ず返ってくるのが、大本営こそ旅順要塞に対する想像力を欠いたではないかという弁解。たしかに部分的には当たってなくもない。ほかに人がいないのならともかく、選りによって休職中の乃木中将を、あえて大将に昇進させ第3軍司令官に任じた人事こそ、まさしく日本軍が旅順要塞を軽視していた証拠といえよう。
だが、攻略軍司令官として乃木将軍が無能だったのは、決して旅順要塞について情報がなかったわけではないのに、自らは積極的に情報を集めようとしていないこと、あるいは、南山や太白山の戦場を見ているにもかかわらず、同じような強襲を旅順でも繰返し、あげく判断停止に陥って「白襷隊」のごとき無用の犠牲を強いたこと始め、どう弁解してみても、要塞攻略戦を指揮するに足る軍事的センスが、決定的に乃木将軍には欠けていたと見るほかはない点などで明白ではないか。
古来、完全に包囲され、後詰を絶たれた要塞や城郭が陥落しなかった例はない。
ポートアーサーの運命は南山、太白山防御線の陥落により、北方に展開するロシア軍主力との連絡を絶たれたことで、ほぼ、決まったといえる。
弁護する者は、セバストポーリー戦やヴェルダン戦を持ち出すが、どちらの戦いも攻防の焦点は後方の軍主力との連絡線確保にあった。連絡線を断たれたセバストポリーは陥落し、最後まで連絡線を保持できたヴェルダンは陥ちなかった。このポートアーサーのケースだと、港内に立て籠もる第一太平洋艦隊(旅順艦隊)を潰してしまえば、外部との連絡線を完全に絶つことになる。まずは港内のロシア艦隊を見渡せる砲撃観測点を奪取することが戦略上、第一義的要点だったはずだ。にもかかわらず、漫然と前周的包囲攻撃に出たうえ、かつ要塞中の最も守備の堅い部分に軍主力を投入するなど、このうえなく指揮官としては無能だったというほか、いかなる評価も下しようがない。
本質的に乃木将軍は軍人に向かない、文人ないし詩人肌というべき性格の人間と見るのが妥当だろう。