「かつて、中国には象がいた」という衝撃的な話から始まり、豊かな森だった黄河地域が殷、周、秦などの時代を通じていかにして変容していくかが述べられている。現在、黄河は読んで字のごとく、黄色い水が流れる大河で、流域には黄色の大地が広がっている。だが、筆者によると、この河はかつて「河」と呼ばれていたという説もあり、都市形成による環境破壊の深刻さがうかがえる。
もちろん、この本は環境問題を扱ったものではなく、古代中国が生み出した青銅器製造の技術や甲骨文字、始皇帝が残した遺構など、中国文明の栄光の数々を紹介しているが、筆者が注目しているのは、あくまで森や河といった自然がいかに文明の形成に寄与したか、自然と共生することがいかに素晴らしいことか、という点である。本書は単なる考古学趣味を超越し、歴史を学ぶことの本来の意義を再確認させてくれる。(土井英司)