中南米各国の音楽文化の本質に迫まろうという、値打ちある中南米音楽案内書。幅広く、奥深い。
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朝日新聞での紹介や月刊ラティーナ誌で書評をみかけたのをきっかけで購入。
国際交流基金企画が催した「中南米の音楽」という講座に起因する本書は、同講座でもコーディネーターを務めた東京大学の石橋純氏が編み、講座に参加した9名の執筆者が、それぞれの専門に基づき各章を執筆している。
各章が対象にしている執筆者と地域は順に、【1】石橋純(総論)【2】岡本郁生(アメリカ合衆国)【3】宮田信(アメリカ、メキシコ)【4】倉田量介(キューバ)【5】鈴木慎一郎(ジャマイカ)【6】石橋純(ベネズエラ)【7】水口良樹(ペルー)【8】木下尊惇(ボリビア)【9】細川周平(ブラジル)【10】比嘉マルセーロ(アルゼンチン)といった具合で、各国の音楽の専門家である執筆者陣が、長年の実地での体験や調査を踏まえた膨大な知識・考察を、「わかりやすく」かつ、「音楽と人々・社会・時代の関係/時代に生きてきた大衆の心」という視点を失うことなく、各国の音楽を紹介している。
本書の注目点でもあり、注意して欲しい点でもあるのは、メキシコ、ジャマイカ、ブラジル、アルゼンチンの4カ国の章に関しては、入手しやすい日本語の概説書では、これまで紹介されてこなかった音楽(順に、チカーノ・ミュージック、ダブ、セルタネージャ、アルゼンチン・ロック)が紹介されている。日本で紹介される機会がこれまで少なかったながら、当地では大衆の生活になくてはならない音楽に、該当章はその紙幅を割いている。大変貴重だ。また、【2】に関しては、中南米の音楽と密接な歴史をもつ「サルサ」がテーマに取り上げられている。他の章については、各国の音楽の概説となっている。
執筆や編集における堅実さが隅々から伝わってくるので、年齢問わずに、また玄人/初心者も問わずにおすすめできる。章を隔てた記述が繋がって(特に汎カリブ海音楽であるサルサや、同時代的に音楽を通じての社会革命を夢見た中南米フォルクローレにおける各章の記述において)、中南米で音楽が広域に呼応してきた音楽地図が頭の中で生成された時、本書の奥深さを感じた。良書だ。