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脱線FRB

価格: ¥1,890
カテゴリ: 単行本
ブランド: 日経BP社
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原因はカウンターパーティー・リスクか? ★★★☆☆
需給ギャップやインフレ率と適正な政策金利の水準の関係を示した“テイラー・ルール”で有名なスタンフォード大経済学者のジョン・B・テーラーが、07年以降のサブプライム問題とその後の金融危機の原因などについて記した本です。

基本的にサブプライム危機を招いた主因として長期間過度に低水準に据え置かれた政策金利をあげ、危機が発生した後の対応が本来カウンターパーティ・リスクへの対応であるべきだったのに、流動性の不足を原因と勘違いし、流動性供給に力点を置いたことが危機を長引かせたと説いています。
つまり一連の住宅バブル、サブプライム危機、金融危機、景気後退は、不適切な政策が招いたものだと論じています。

この本で示されたグラフを見るに、彼の主張は正しく聞こえます。
確かに特にリーマン・ブラザーズの破綻以降、世界各国の中央銀行が市場に大量の流動性を供給しましたが、実は市場参加者が相手の信用力を信じられなくなったカウンターパーティ・リスクが原因のようで、その点では中央銀行の対応は間違っていたのかもしれません。
カウンターパーティ・リスクが顕在化している環境では、いくら流動性を供給しても市場ではお金が回りません。

ただし本当に流動性の危機ではなくカウンターパーティ・リスクの高まりがリーマン危機後の金融危機の原因だったかどうかは、この本に掲載された図表だけでは実証されたとは言い難く、おそらく今後とも侃々諤々の議論が経済学者の間でなされるのでしょう。
もっとも正直言って市場関係者や一般の人にとってはどうでもいい論争なのですけど。

それにしてもなぜベア・スターンズやAIGは救済されリーマン・ブラザーズは破綻させられたのかは疑問で、こうした一貫性のない政策が少なからず市場を混乱させたことは間違いないと思います。
正統なマネタリズムの分析 ★★★★★
著者の主張は明快で、以下の3点に集約されている。
・住宅バブルは過度の金融緩和よって起こったものであり、
・今回の金融危機は対策を誤ったために長引き、
・リーマンショックはリーマンの破綻それ自体より、政府の方針が不明確だったことが原因。

市場にショック拡大のメカニズムが内在するなどとは考えず、すべて政府の失敗だと言い切るところはミルトン・フリードマンを髣髴とさせる。

もちろん今回の金融危機に関して、そのような主張には賛同できない向きも多いだろう。
たとえば、テイラールールに従ってデフレに陥っていても良かったのか?FRBの流動性供給にも一定の効果はあったのではないか?等、反論はいくらでも考えられよう(説得的な証拠を挙げられるかどうかはともかく)。

だが彼は根拠となるデータを示し、そのデータを素直に解釈することで上の主張を説得的に論じているため、本書は議論の参照点となるに違いない。「ウォール街の強欲が金融危機を引き起こした」というようなジャーナリスティックな考えを解きほぐしてくれる良い本である。
金融危機3つの「なぜ」に簡潔明快に答える一冊 ★★★★★
金融危機が「なぜ発生したのか」「なぜ長引いたのか」「なぜ発生後一年以上も経ってから悪化したのか」という三つの「なぜ」について、データ分析を基に簡潔明快に答えている一冊。

【なぜ発生したのか】 FRBの行き過ぎた低金利政策に伴う過剰流動性が住宅ブームを形成し、それが崩壊した。住宅ブームを支えたサブプライム・ローンがMBSとして組み替えられたことで、証券のリスク評価が困難になった上、不良債権がどの金融機関のバランスシートに潜んでいるのかが分からなくなった。

【なぜ長引いたのか】 FRBが市場金利高騰の原因を流動性不足に求めたが、実際には金融機関のバランス・シートの質劣化と不透明化だった。FRBは市場に流動性を供給すると共に減税や緊急利下げ等の諸策を打ったが、誤診に基づく処置だったため効果が出なかった。(利下げは原油を始めとする商品の高騰とドル急落を招き、経済を停滞させた。)

【なぜ発生後一年以上も経ってから悪化したのか】 ベア・スターンズは救済したがリーマン・ブラザーズはせず、しかしAIGは救済するという政府の一貫していない金融機関支援策が市場に不確実性と不安を与えた。

これら著者の見解が簡潔に述べられた後、1980年代に成功したインフレ率・GDP成長率の変動抑制、2000年前後の新興市場危機からの学びとしてのIMFの支援政策ルールの設定等、金融政策が過去に乗り越えてきた課題と成功を振り返りつつ、今後の金融政策の課題が提示されている。

内容は非常に濃い。説明も簡潔で、根拠も分析結果がシンプルなグラフで示され、解りやすい。また、著者論文に寄せられた質問やグリーンスパン氏の反論、解説者の竹森教授による異なる見解等も紹介されており面白い。当然マクロ経済学を一通り勉強していた方がきちっと理解できると思うが、説明や分析に用いられている金融指標等もそもそもそれが何であるかという点から簡単に説明されているので、日頃から日経新聞や経済誌等を読んでいる人であれば十分に楽しめるのではないかと思う。

経済誌の特集等でもさくっと読めそうなボリュームでこの定価はちょっと高いかな・・・とも感じたが、内容の質の高さで挽回。