維新史のもうひとつの側面
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維新史を「関が原の敗者の復讐戦」として位置づけ、あえて関が原の戦いから描いてきた本作。
しかし、維新の動乱は戦国時代的な藩権力のせめぎあいだけで説明できるものではありません。
それは一面において、200年以上の太平の世のあいだに形而上的思考をみにつけた日本人による「思想の戦い」の時代でもありました。
尊王思想、開明(開国)思想、攘夷思想などのパイオニアたちが、この巻以降の主人公たちです。
すなわち、徒手空拳で蘭書の翻訳に挑む、前野良沢や杉田玄白などの開明派グループ。
かならずしも尊王思想が一般的ではなかった時代に同思想の流布をこころざす、高山彦九郎。
そして、海外の列強の脅威に警鐘をならし、幕末の攘夷家たちのバイブルともなる「海国兵談」を著す、林子平。
作者は、幕末をえがく準備として、関が原につづき、これらの「風雲児たち」の活躍をえががざるをえなかったのでしょう。
しかし、たんなる「前置き」ではすまさず、かれらの生き様をたいへん魅力的に描いています。
上記の風雲児たちは、史実においてもそれぞれに面識があるようですし、関が原に続いてこの時代を描こうとした作者の慧眼には感服せざるをえません。
私は正直なところ、三巻までの「関が原編」は司馬作品の焼き直しの色合いが強く、あまり好きではないのですが、この巻以降六巻までつづく「蘭学黎明編」に圧倒され、普段あまり買わないマンガ本を全巻そろえて繰り返し読むほどのマニアになりました。
本作品を初見の人もぜひ六巻までは読んでほしいところです。
風雲児たちは歩きまくる
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前野良沢・高山彦九郎・林子平らが登場。
「この時代 志を持った人は旅をするほかはないのである」
呉智英『現代人の論語』
現代人の論語 (文春文庫)
「・・・朋あり、遠方より来たる、また楽しからずや。
人知らずしてうらみず、また君子ならずや。」の解説では
志を持ちながら受け入れられない孔子の姿を解説していますが、
本書でも、志を持った風雲児たちが、日本中を歩きまわります。
「人は出会い そしてまた別れる その離合集散のくり返しが
人と人の歴史をつづってゆく」
インターネットは人の歴史をつづっていけるのか?なんてことを考えました。
寛政の三奇人・林子平、高山彦九郎が登場
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「ターヘル・アナトミア」を翻訳し、「解体新書」を著した前野良沢と杉田玄白、
そして、のちに「寛政の三奇人」と称せられる林子平や高山彦九郎といった
異能の持ち主が続々と新登場。
なかでも、最大の奇才といわれた平賀源内は、浮世絵師の鈴木春信に、
多色刷りの大量生産の技術を教えることによって「錦絵」を生み出した。
日本が世界に誇る、大版画芸術の幕開けである――。
そうそうたるメンツが登場
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宝暦治水編が完結。ひたすら国家社会のため、人民のために命をかける江戸の「プロジェクトX」である。
そしてまた、本巻では前野良沢、杉田玄白、高山彦九郎、林子平といったしばらく主要な役割を演じるキャラクターが次々と登場する。強烈な個性が織りなす大河ドラマは、われわれが今住むこの国の基礎を作ったのである。
筆者は自虐的に語っているが、本当によくこの時代のことを勉強され、また綿密に構成を練られたに違いない。そうでなければここまで魅力あふれる物語にはなりえなかったはずである。
20年前に受けた感銘を思い出した
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最初にこのマンガを読んでから20年。
徐々に単行本を買いながらようやく4巻目となった。
この第4巻では、第3巻から続く「宝暦の治水」が劇的なクライマックスを迎えた後、
いよいよ平賀源内、前野良沢、杉田玄白らが登場する。
源内の天才ぶりと、良沢・玄白のオランダ語翻訳の苦労話が語られるが、
この第4巻は、次の第5巻への序章的な位置づけになるだろう。
それよりも、個人的に印象的なことがあったので記しておきたい。
「海国兵談」の著者林子平の生い立ちが語られるが、
林子平は「部屋住み」と呼ばれる武士の次男坊だった。
つまりは「跡継ぎ補欠要因」で、仕官の可能性のない飼い殺しの身だったのだ。
そんな林子平がマンガの中で言うセリフがこれ。
「自分の置かれた立場に文句ばかり言って何もせずに終えるか、
逆にその立場を生かしきって自分を成長させるか、
もちろん後者をとる。」
このセリフ自体は忘れていたが、
20年前にこのセリフを読んで強く感銘を受けたことをはっきりと思い出した。
思えば、私自身の行動指針になっていたような気がするし、
そのおかげでポジティブに生きてこられたようにも思う。
あらためてこのマンガに感謝!