警察ミステリーと控え目なラブストーリーの絡み合い
★★★★☆
警察ミステリーの短編集としても,かなり面白いと思う。
しかし,本作を特別なものにしているのは,捜査する側(刑事)の出自・人生に由来する背景と,微妙に交差する男女の警官の心の機微を,推理仕立てのプロットに織り込ませ,単なるミステリー以上の物語としての奥行きを作り出していることだろう。
首都近郊のベッドタウンで生まれ育って実質的な故郷を持たず,仕事に挫折しまた妻を病で亡くした男と,圧倒的な過疎地で生まれ育って今でもそこで働き,やはり事故で夫を亡くした女。彼らが,連作の短編ごとに入れ替わりに,そして時には一緒に顔を出して,徐々に距離を詰めてゆく。最後まで男女の仲としてはあいまいなままだが,将来への予感も持たせて連作は終わる。
明快な筋立てを求める向きには物足りないかも知れないが,人物や人生の陰影を楽しめる作品である。