改訳「決定版」?
★★☆☆☆
数々の功績をあげてきた宇宙パイロット、泰平ヨンの繰り広げる、奇想天外な冒険の数々。簡単にいえばそうなるでしょうが、レムのものだけあって作品自体は安心して読める面白いものです。雰囲気としては『宇宙創世記ロボットの旅』『ロボット物語』などに近いコミカルなものです。レム自筆のイラストや、これまで取りこぼされてきた序文の類もすべて収められてあるというのは嬉しいかぎり。
しかし、この改訳はあまりにずさんではないかと思いました。古風な言葉を操るロボットたちの住む星を描いた「第11回の旅」では、「〜失はざりき競技老達」(p.102)というような、助動詞の活用ができていないところが見られました。また、天地創造のパロディである「第18回の旅」では、冒頭から「〜とは断言しかねる」とあるべきところが「〜とは断言できかねない」となっています。またこの回は、重要な登場人物の名前が「ブールズ・E・バブ」から途中で「ブールズ・F・ブック」になぜだか変わってしまっています(私の持っているのは初刷です、2刷以降直っていたらごめんなさい)。他にもこういった日本語のミスがあまりに多く、苦痛でした。
旧訳を読んだことがないので、これが旧訳からのものなのか新訳で出てきたものなのかわかりませんが、いずれにしても新訳者と編集者は、もっと「先人の遺産に手を入れる」ということに対して責任感と緊張感を持つべきではないでしょうか。そもそも、この作品をパロディとみた深見氏と、メタフィクショナルなハードSFと捉える大野氏では、作品に対するスタンスが根本的に違うのですから、共訳の形にすること自体無謀です。作品に対する評価は5ですが、今回の改訳をまったく評価できないので、全体として2つをつけさせていただきます。