21世紀を考えるヒント満載
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雑誌「世界」に「脳力のレッスン」として2004年末から07年末まで連載したものをテーマ毎に再編集したもので、単行本化2冊目にあたる。米国ではブッシュ政権下でイラク開戦から泥沼化していく時代、日本では小泉・安部政権下で保守化と市場経済化の進展の時代に、筆者が「脳力」(物事の本質を考え抜く力)を駆使して、時代と並走しながら評論する。
内容は、国内外の政治、外交、経済、歴史と多岐にわたるが、筆者の問題意識と論理にブレはなく、イラク情勢や小泉外交の先行き予想は、その後おおむね的中している。これは一つには筆者が現場を訪ね自分の眼で見ることを重視していることによろう。欧米亜の大国はもちろん北欧・東欧・アジアの小国や国内の地方(高野山、陸奥の斗南藩史跡)まで、実によく出掛け、現場を観察し現場で考える。二つには時代と向き合うのに歴史から学ぶ視点であろう。21世紀初頭からほぼ100年前の第1次世界大戦前後の国際情勢と戦後処理そしてその後の展開を現在の状況と比較することで教訓を読み取り、また明治大正期の偉大な先人達(渋沢栄一、山川健次郎、内村鑑三、吉野作造等)の、時代を見通す確かな眼と卓越した構想力に触れる。
本書で繰り返し扱われているのは、イラク戦争の進展とそれに対応する日本外交である。ブッシュの保安官的発想の「力こそ正義」主義が破綻していく過程、米国との距離のとり方を徐々に変えていったEC各国と変えない日本、アジアや中東諸国との間で孤立を深めていく日本の姿を、犀利に分析摘出してみせる。さらに筆者はいたずらに批判するだけでなく、日本の歴史的条件や地政的条件、経済産業力を踏まえて、日本の世界に果たすべき役割を提案する。
本書には日本人一人一人が、今生きている21世紀を考えるためのヒントが満載である。また袋小路に入っている現代日本の政治家や官僚達に勧めたい。