収容所の記述もさることながら、金正日との会見を盗聴したテープの内容は圧巻である(雰囲気を残した翻訳には相当苦労されたと思う)。
上下巻あわせると相当長く、また冷戦当時のものでいささか話も古いのだが、お勧め。
二人にかけた金正日の期待は大きいものでした。韓国では考えられないほどの莫大な予算を映画制作費として与えられます。しかしその一方、必ず監視員付きの行動、また北朝鮮俳優のレベルの低さ等、様々な問題にぶつかりますが、二人は屈せず、北朝鮮脱出の日を夢見ながら映画製作を続けます。その中で初の北朝鮮映画での国際映画祭(チェコスロバキア)での受賞を果たします。
脱出が現実となってきた日、喜びを感じながらも二人は、今まで共に映画に携わってきた北朝鮮人民との別れに心の中で涙を流します。二人が与えた新しい学びに、純真に取り組む北朝鮮の俳優たちとの心の交流は拉致という関係を超えても、やはり存在したのです。
金日成との出会いのエピソードも書かれた、かなり古い本ですが、興味深く読めます。翻訳の池田菊敏氏の文体は、いつも北朝鮮人民に対する愛情溢れ、読みやすくお勧めします。
この本が特に優れているのは、著者二人が映画ファンである金正日に大変重宝されていたため、金正日という人物を極めて近い距離から観察しているところである。その描写は実に生々しい。金正日は外部世界のことを良く知っている。彼は、自らの利益のために計算をした上で、北朝鮮という国を歪んだ形のままで運営しようとしている。そして、細かな点まで政策決定の判断を下している。今、日朝国交正常化交渉が再開されようとする中で、我々は、こんな人物を相手にしているのだということを良く踏まえなければならない。