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モノ書きピアニストはお尻が痛い (文春文庫)

価格: ¥630
カテゴリ: 文庫
ブランド: 文藝春秋
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音と言葉のはざまで ★★★★★
 根っからのミステリー好きの私。以前、著者の『ショパンに飽きたら、ミステリー』(国書刊行会)を読んで、取り上げる作品に著者のセンスが光っていたところ、そのミステリーのどこが面白かったかに独自の審美眼が感じられたところ、そんなところがユニークで面白くて印象に残っていました。
 それと、ピアニストと文筆業、両方のプロとして活動していらっしゃるところ。片方だけでも容易なことではないのに、両立させているなんてすごいなあと、クラシック音楽も好きな私は、著者の稀有な才能に惹かれてしまうんですよね。

 <評論する楽しさにめざめたのは、大学院で修士論文を書いたときのことだ。何かについてつきつめて考える、それにみあう表現を探し、文章を彫琢することに快感をおぼえた。>(p.250)と記す著者の、本書は音と言葉のはざまに立ったエッセイ集。単行本『双子座ピアニストは二重人格?』(音楽之友社)に一編のエッセイを加え、タイトルを改めて文庫化したものです。

 作曲家ドビュッシーをめぐる考察が、明晰で理知的な文章でありながら、その底に十九世紀末デカダンスの香りを色濃く漂わせているところ。そこがまず、印象的だったな。ドビュッシーの音楽にある光と影が、著者のなかの「二つ」、音楽のフランスと文学のフランスへとつなっがていく辺りに、本書の一番の妙味を感じました。

 ピアニストが語るピアニストの章「ピアニスト的演奏論」のなかでは、ラローチャの「さよならコンサート」でのハプニングの話がよかったあ。先日手にとった熊本マリさんの『人生を幸福にしてくれるピアノの話』(講談社)の中でも称えられていたのですが、本職のピアニストにとても人気がある魅力的なピアニストなのですね、スペインの「ピアノの女王」、アリシア・デ・ラローチャ。

 本文庫に掲載されている写真や図版も、独特の風情があっていいですね。「ピエール・ルイス邸でのドビュッシー」「メリザンドに扮したメアリ・ガーデン」のモノクロ写真や、ドビュッシーの自筆による楽譜や台本の写真、「ピエール・ルイスとアンリ・ド・レニエ」(ジャック=エミール・ブランシュ画)の絵など、エッセイの香りにふさわしいムードを湛えていて素敵でした。
ピアニとであり文筆家の青柳さんの胸のすくエッセイ ★★★★★
 この本は単行本のときは『双子座ピアニストは二重人格』という表題で、文庫版の段階で「モノ書きピアニストはお尻が痛い」になったそうです。単行本の題名のほうが、内容を反映しているように思いました(文庫版の題名は収録されているエッセイのなかのひとつの表題を援用)。
 著者は6月4日の双子座生まれで、この星のもとに生まれた人は「ちょっとおかしい」人が多く、二重人格らしい(p.256)。それはともあれ、著者はピアノの演奏家であり、文筆家です。かつ自己分析によれば、著者は書物ではマニエリスティックな穿った評論を好む人ですが、こと音楽に関するかぎり自然を信奉する人らしいです。ピアノを弾くときは優雅で洗練されたピアニズムを目指すが、文学では「醜悪の美」にのめりこむというのです(p.29)。
 このことが理由からかわからないが、著者はものを論じるときに二面的な接近が得意のようです。ドビュッシーとラヴェル、演奏家ではミケランジェリとポリーニ。そして、ドビュッシーとマーラー、ドビュッシーとワーグナー。そう、著者は、ドビュッシーの専門家であり、ドビュッシーについての論文で博士号を取得しているのです。本書は、「わたしのなかの『二つ』」「ドビュッシーのなかの二つ」「ピアニスト的作曲家論」「音楽の背景」「大いに飲み、食べ、語る」「ピアニスト的演奏論」「演奏することと書くこと」で多くのエッセイがグループ分けされています。
 該博な知識に裏づけられた作曲家論、演奏論もためになるが(とくにピアニスト的ピアニストと作曲家系ピアニストとの相違を述べた「作曲家系ピアニストの演奏は、なぜ面白いのか」[pp.206-213])、お酒が大好きであるとか、食に関する想いも人並みでありません。音楽評論家という種族に対する意見は痛快でした。
専業モノ書きストもびっくりの面白さ ★★★★★
青柳さんはモノ書きピアニストと称し、モノ書きとしての自分を謙遜されるが、いやいやとても文章のうまい方だと思う。この本はとても長いスパンのエッセイ集だが、レベルもどれもしっかりしている。他の作品も読んでみたいと思った。