古本宝箱
★★★★★
著者のお二人とも大阪出身ということで、関西のノリ全開、抱腹絶倒の「漫談」が読めるのが楽しい。内容が文庫中心であるのもお二人らしく、好感を持つ。日々こつこつと文庫中心の買い物をしている私でも、がんばれば手が届きそうな世界が本書のなかにはある。文庫といえども、奥は深い。お二人はそのことを熟知していらっしゃる。そういうところに深い共感を覚える。
本書の後半部に印象的な箇所がある。丸谷才一・鹿島茂・三浦雅士の『文学全集を立ちあげる』のなかで、このハイソサイエティなお三方が上林暁などの私小説作家を文章が下手だという理由で全集からは外そうと述べているらしく、山本氏はこのことを嘆く。そして、それに同調する岡崎氏の「むしろはずしてもらってありがとう」という物言いが痛快至極である。(387頁)極めつけは、架空の「気まぐれ日本文學全集」である。見事というほかない。これほど魅力的な全集がありうるかと思うほどである。このようなお二人の懐の深さに賛嘆の念を禁じ得なかった。夢が実現するときが来ることを祈りたい。
えげつなさがなくなってしまった
★☆☆☆☆
著者両氏の本は、ほとんど読んでいる。日々古本屋と古書展を徘徊している、自称雑本ソムリエの自分としては、同じB級古本マニアの臭いを嗅ぎ取って親近感を抱いていた。
両氏の本の最大の魅力は、なにをどこでいくらで買った、といういわゆるセドリ自慢であった。読んでいて、面白く、かつ楽しい。
そうした記述を、えげつないと批判する人もいるようだが、間違いだ。それなくして、なにが残ろうか(そういうものを、本にする必要があるのか、というのは別次元の問題だ)。
さて、本書である。
まず、対談本なのに読みづらい。拡大文字とゴシックを併用する必要はなかった。
それはまだよい。読み終わって、「これはなんなのだ」と思った。
文学入門に全集企画、両氏はいつから、そんなにお偉くなってしまったのか。だれかが錯覚させてしまったのか。
そんなことは、お高くとまった大学教授や文芸評論家にやらせておけばいい。
両氏の選書そのものは、自分にも同感できるものが多かった。しかし、やっぱり目線が低いのはどうにも隠しようがない。
両氏のブログをみると、今でも古本屋で買った本を、一箱古本市などに出品している。
そこで、なにが売れ、なにが売れなかったのか。そこから、なにがみえてくるのか。
B級古本マニアが知りたいのは、それだ。えげつないのは、決して恥ではない。むしろ、古本関係の本の、最大の売りなのだ。
語るのも、読むのも楽しい古本文化
★★★★☆
古本は人間くさい。人から人の手にわたってきた匂いというのもあるけど、売られ方や買い方にも、この本で語られているような熱い人間ドラマが密かに繰り広げられているからだろう。
自称「文庫界のおすピー」という二人だけあって、寝転んで読むのにちょうどいい肩のこらない文学入門。小説家や詩人のエピソードから、編集、出版、そして古本屋の店頭に至るまで縦横無尽に語る「古本文化」談義が楽しい。
文庫リストや書影も充実していて、古本屋めぐりの資料としても使える。
初めての町に行くと、まず古本屋の看板からチェックする人、カフェと聞けば頭に「古本?」と付けてしまう人におすすめ。
読んだらすぐに古本屋に行きたくなる、自分の目と足で書かれた新・文學入門。
★★★★★
まずその本の装丁に目を奪われました。本体のデザインと一体化した帯がこの楽しい読み物の心弾む内容を表現してくれています。
中を開けば、その隅々にまで気を配った凝った本作りが目を楽しませてくれます。この本を担当した編集者の気持ちの入った仕事ぶりがそこにありました。これから手にする人の楽しみを奪わないように細かい説明はしませんが文庫好きにはたまらない仕掛けがしてありますよ。
さて、いよいよ内容ですが、先程も言ったようにまず楽しい本の話が満載です。著者のお2人の会話が絶妙の掛け合いとなってテンポよく読み手を本と古本屋の世界に誘ってくれます。何しろ毎日のように古本屋の棚や均一台を覗いてきた方たちですから経験は豊富。その自らの足とお金と時間をかけた豊穣な実りの数々を具体的で面白い本にまつわるエピソードに変換して我々に教えてくれるのです。これはうれしい。「難しいことをやさしく、やさしいことを深く」と作家・井上ひさし氏はそのモットーを述べていますが、岡崎・山本両氏の会話はまさにそれを体現していると思います。
ここにはこれまでの文学入門書のような文豪や文芸思潮への言及はほとんどありません。その代わり、一般にはあまり知られてはいない愛されるべきマイナーな作家のよさに光を当て、古本屋の棚に埋もれてしまった本の中から味わうべき随筆を掬い上げ、読書好きの間でさえあまり省みられない詩集を読む喜びを語り合う本書には、ベストセラーや流行に左右されることなく、自分の目と足で面白い本、味わい深い本を探し出すことの大切さを教えてくれる新しい文學入門の姿がありました。
「読書の世界」を広げる本
★★★★★
この本の「新しい」ところはなんといっても、文学を「古本で楽しむ」という切り口ではないでしょうか?
本を読む楽しみ、プラス「なかなか手に入らないものを探す、面白さ」ということも教えてくれる好著だと思います。
「文学」というとどうしても「小説」というところでとどまりがちですが、エッセイと詩の楽しみ方も章を立ててとりあげられており、「新・随筆入門」「新・詩集入門」の内容は、とても新鮮で素敵に思えました。おじさまふたりがこっそり好きな詩について(軽妙な関西弁がチャーミングです)で語り合ってる本なんて、そうありません。
この本を読んで、自分の読書の世界がひろがるのはマチガイナシ! と思いますよ。