「バイアスの心理学」として読めば面白い。
★★★☆☆
本文60ページ程度の薄い小冊子。第1章の軽いイントロダクションの後、第2章では個人的な意思決定場面におけるトヴァスキー&カーネマン流のヒューリスティックについて、第3章では社会的な場面での意思決定について取り上げる。この第2章・第3章では、人の意思決定に見られる「非合理性」が強調されているが、最後の第4章では、「限られた認知資源という制約の元での自然環境・社会的環境への適応」という観点から見直したとき、これらの「非合理性」の合理的側面が浮かび上がってくることを論じている。
タイトルが悪い。この本、「決める」という「意思決定の心理学」全般を網羅的に扱った本ではなく、敢えて言えば「偏る」、「何故人の判断は特定の方向に偏っているのか」という「バイアスの心理学」とでも呼ぶべき本なのだ。第2章・第3章では、人の判断が特定の方向に偏りがちであることを示した代表的な研究が紹介されており、昔の心理学の本なら「人は貧弱な意思決定者」とまとめて終わっていたであろうところを、進化心理学的な観点に「人間の本質的な社会性」という観点まで加味した立場に立ち、「非合理性の合理性」みたいなものを見出していこうという趣旨。そう考えれば、これはなかなかチャレンジングな試み。
ただ、この本、取り上げられている各トピック間の関係が見えづらく、相互独立的に並べられている雰囲気が強いのだが、第2章・第3章においてそのような形で紹介されていた意思決定上の様々なクセが、「適応」という観点から見ると、あら不思議、相互に関連し合って人間社会を形成する不可欠なファクターになっていることが一目瞭然に…、なっていれば最高だったのだが。著者の視点そのものとそこから見えている風景を読者に示し、「あっ、そうか! そうだったのか!」と目からウロコを落とさせるべき第4章において、最も各トピック間の関連が見えづらいものになってしまっているのが残念。