「裁判員時代」の指針
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いわゆる「体感治安」の悪化とともに、国民の処罰感情も激しくなっている昨今ですが、本書を読めばそのような時流に呑まれることなく、冷静に「犯罪と刑罰に関する法律」について理解を深めることができるでしょう。書店には裁判員制度をテーマにした書籍があれこれ見られますが、犯罪と刑罰をその歴史から説き起こし、人権尊重を第一義とする日本国憲法下でどのように考えるべきかを平易に語る本書こそ、「裁判員時代」の指針にふさわしいといえます。
特に印象深い一節があります。よくテレビなどで「加害者の人権より被害者の人権を守れ」といわれることがありますが、著者は「これは誤解である」として、下記のように語ります。「『加害の権利』がないのは当然であり、それゆえ『加害者の権利』もない。加害者は、正当防衛からは保護されないのであって、その限りでは法の保護を奪われている。被疑者・被告人には刑事手続上の権利が認められるが、『被疑者・被告人』と『加害者』は同一ではない。被疑者・被告人には『無罪の推定』があって、有罪が確定するまでは『加害者ではない』と推定されるのである。被疑者・被告人の手続的権利を『加害者の人権』というのは、誤りである。(中略)『犯罪被害者の権利』と『被疑者・被告人の権利』は、シーソーゲームの関係にあるのではなく、車の両輪のように両者とも拡大・向上していくべきものである」。