正史の翻訳作品はまだまだ埋もれている・・・。
★★★★★
「昭和ミステリ秘宝」の中でも群を抜くお宝の1冊。お断りしておくが、初心者がいきなり手に取る本ではないかもしれない。ウィップルにしろヒュームにせよ余程のコアなミステリマニアしか知らない古典的探偵作家ではある。しかし翻訳者が横溝正史となれば話は別。「二輪馬車の秘密」は、編集長時代の正史が江戸川乱歩を「陰獣」によって再び『新青年』に再登場させる引金となり、「鍾乳洞殺人事件」は戦後正史自身が「八つ墓村」を生む為の素材となった。そういうエピソードを踏まえて読むと味わいもひとしおなのではないだろうか。
巻末の解説も詳細かつ判り易い。テキストが初出時と単行本で異なる「二輪馬車の秘密」はその両方をしっかり比較掲載している。その辺の凡手の仕事ではない。この「昭和ミステリ秘宝」シリーズには『真珠郎』もあり、角川文庫よりはるかに丁寧な校訂・解説がなされているので未読の正史ファンの方には是非こちらをお勧めする。
横溝正史にはまだ多くの翻訳作品が埋もれたままになっている。別名義だったり渡辺温や延原謙達との合同ペンネームでどちらの筆によるものか判別がつかないものもある。著作権の問題があるのかもしれないが、これだけ時を経ているのだから少しでも正史訳の可能性がある作品はこの際纏めて刊行できないものか。「横溝正史翻訳コレクション」の続編を心待ちにしたい。
古典作品
★★★★☆
横溝正史には、若い頃を中心に相当な数の翻訳がある。そのうち、原作が有名でありながら、入手困難な2作を復刊したのが本書。
収録されているのは、Kenneth Duane Whippleの『The Killing of the Carter Cave』(1934年)、Fergus Humeの『The Mystery of a Hansom Cab』(1886年)。
忠実な訳ではない。かなりはしょったり、加工している部分が多い。また、翻訳の正確さという点でも、のちの訳と比べて問題のある点が少なくないという。まあ、翻訳された時代性を考えれば、仕方ないだろう。
また原作の調査や比較、横溝正史翻訳年表など、附録部分もしっかりとつくられているのが嬉しい。
両作とも、ミステリとしての出来はまあまあというところだろう。『二輪馬車の秘密』などは、あしざまにいう評者も少なくないが、けっして捨てたものではないと思う。
ミステリ・ファンにとっては必読の一冊。
正史の翻訳作品はまだまだ埋もれている・・・。
★★★★★
「昭和ミステリ秘宝」の中でも群を抜くお宝の1冊。お断りしておくが、初心者がいきなり手に取る本ではないかもしれない。ウィップルにしろヒュームにせよ余程のコアなミステリマニアしか知らない古典的探偵作家ではある。しかし翻訳者が横溝正史となれば話は別。「二輪馬車の秘密」は、編集長時代の正史が江戸川乱歩を「陰獣」によって再び『新青年』に再登場させる引金となり、「鍾乳洞殺人事件」は戦後正史自身が「八つ墓村」を生む為の素材となった。そういうエピソードを踏まえて読むと味わいもひとしおなのではないだろうか。
巻末の解説も詳細かつ判り易い。テキストが初出時と単行本で異なる「二輪馬車の秘密」はその両方をしっかり比較掲載している。その辺の凡手の仕事ではない。この「昭和ミステリ秘宝」シリーズには『真珠郎』もあり、角川文庫よりはるかに丁寧な校訂・解説がなされているので未読の正史ファンの方には是非こちらをお勧めする。
横溝正史にはまだ多くの翻訳作品が埋もれたままになっている。別名義だったり渡辺温や延原謙達との合同ペンネームでどちらの筆によるものか判別がつかないものもある。著作権の問題があるのかもしれないが、これだけ時を経ているのだから少しでも正史訳の可能性がある作品はこの際纏めて刊行できないものか。「横溝正史翻訳コレクション」の続編を心待ちにしたい。
古典作品
★★★★☆
横溝正史には、若い頃を中心に相当な数の翻訳がある。そのうち、原作が有名でありながら、入手困難な2作を復刊したのが本書。
収録されているのは、Kenneth Duane Whippleの『The Killing of the Carter Cave』(1934年)、Fergus Humeの『The Mystery of a Hansom Cab』(1886年)。
忠実な訳ではない。かなりはしょったり、加工している部分が多い。また、翻訳の正確さという点でも、のちの訳と比べて問題のある点が少なくないという。まあ、翻訳された時代性を考えれば、仕方ないだろう。
また原作の調査や比較、横溝正史翻訳年表など、附録部分もしっかりとつくられているのが嬉しい。
両作とも、ミステリとしての出来はまあまあというところだろう。『二輪馬車の秘密』などは、あしざまにいう評者も少なくないが、けっして捨てたものではないと思う。
ミステリ・ファンにとっては必読の一冊。