金田一ものの作者自選ベスト7位だが...
★★☆☆☆
本書は作者自身が『真説 金田一耕助』の中で、金田一ものの自選ベスト10の第7位としている。
正しくは、田中潤司が選んだベスト5(1.獄門島、2.本陣殺人事件、3.犬神家の一族、4.悪魔の手毬唄、5.八つ墓村)を「妥当なもの」とした上で、第6位に『悪魔が来たりて笛を吹く』、その次にくるものとして本書を挙げている。
しかし、本書は推理作品としては評価に値しないばかりか、欠陥品というべきものである。
笛小路元子爵と槙殺しの真相が明らかにされるのは、藤村夏江の証言によるもので、金田一の唯一の推理はマッチ棒に関するものだけで、後は真相の説明ですらなく単なる推測を語っているに過ぎない。
しかも、唯一の推理であるマッチ棒に関しては、その推理の基にある理論は高1の教科書に載っているものだが、金田一の推理は30数年前高校生だった私が一読しただけで「穴」がわかる程、お粗末なものである。
したがって、後は「読み物」としてどう評価するかだが、これは読者の好みにより評価の分かれるところである。
私は金田一の「大穴」推理のおかげで、途中ですっかり興醒めしてしまい、少しも面白く感じることができなかったが、本書と同じように暗くドロドロして救いのない『悪魔が来たりて〜』好きな人には好まれるかも知れない。
戦争の落とし子
★★★★☆
金田一ものの一冊。
軽井沢を舞台にした連続殺人。旧華族、美貌の女優、彼女の元夫たち、オリエント学者、主人に忠実な元軍人などが入り乱れ、複雑な事件となっている。
登場人物、ストーリー、真相ともに正統派ミステリであり、期待を裏切られない一冊といえよう。
とても素晴らしいトリックも1つ、使われており、それだけでも読む価値があったと思う。
宝石店のダイヤ
★★★★☆
「仮面舞踏会」とは、どんな作品でしょう?クリスティでいえば「鏡は横にひび割れて」カーでいえば「緑のカブセルの謎」クイーンでいえば「十日間の不思議」・・・うまい例えとは言えないし、挙げている作品も適当でないかもしれませんが、ようするに超有名作ではないが、埋もれさせるのはもったいない・・・いや損失が大きい作品と云うところでしょうか?才能豊かで情熱あふれる作家は多くの傑作を残した為に、作品自体は傑作なのに取り上げられる機会が少ない作品があります。砂場に置かれたダイヤは、目立ちますが、宝石店のケースに収められると一個一個のダイヤの印象が薄くなってします・・・何たる悲劇。
多くの男と結婚した経歴を持つ女優を巡る事件・・・スケールが大きく大作(文庫を片手で持つと重い)であり読みごたえ充分。大きなトリックはないが細かいトリックが鏤められていて、人間関係自体が謎を作るあたりは晩年のクリスティを彷彿させます。後年、横溝はクリスティについて数多く語っていますが、ミステリを書き続けるにあたりクリスティ的な行き方に共鳴したでしょうか?もっとも、しっかり「横溝ワールド」を作り挙げている当たりは、さすがと言うべき。現代の中堅本格ミステリ作家「法月倫太郎」氏の作品は好きでよく読むのですが、クイーンやロス・マクの影響が分かりすぎる・・・どうもこの辺がいつも引っかかる。難しい。もっとも法月氏がダメというより、横溝正史が偉大と言うべきでしょう。
「獄門島」など比べると、無駄だな部分、説明不足がある気がして、その辺が不満なので星4にしましたが、星5の評価の人がいても一向に不思議でないで出来です。物語も最後に至り、真犯人と金田一が対峙する。このシーンは名場面です。この犯人像を創造しただけでも一読の価値あり、一連の金田一シリーズとは一味違う犯人です。戦後すぐに書かれて一連の作品と戦後二十年以上後にかかれた作品である本作。横溝の心境が変わったのか?時代がかわったのか?興味がつきません。
紛れもない名作にもかかわらず忘れ去られた感があるのが非常に残念だ。
★★★★★
著者の膨大な作品群の中では、すっかり忘れ去られてしまった感があるが、紛れもなく晩年の横溝正史が生み出した名作の一つに数えられるべき作品。雑誌での連載と中断、その後十数年の時を経て、新たに800枚の書下ろしを加えて文庫570頁の大作となったが、大作の名に恥じない。
著者の小説の柱の一つである没落華族の世界が舞台の中心なので、当然、もう一つの柱である、古くからの因習が色濃く残る農村は描かれていない。しかし、それ以外の横溝正史の小説を構成するすべての要素がこの作品に詰まっていると言っても過言ではない。
それも非常に濃厚だ。ドロドロでグチャグチャ。作品全体がネットリとした異様な雰囲気に覆われている。憎めない脇役や著者独特のユーモア、そして飄々とした金田一耕助の魅力をもってしても、それを取り除くことはできず、その雰囲気に飲み込まれてしまっている。しかし、詰め込みすぎは感じない。圧倒的な感じだ。
探偵(推理)小説としても、数え切れないほどの細かな伏線が張り巡らされており、非常に読み応えがある。何度読んでも飽きることがない。ある人物の唐突な告白により事件が急展開してしまうのが難点といえば難点かもしれないし、それはチョッと無理があるのでは?という点がないではないが、まぁそれもしょうがないかと思えてしまうほど、この作品は素晴らしい。ラストシーン間近の「真」犯人と金田一耕助の静かな対決も出色の出来である。
多くの有名な作品の陰に隠れてしまっているが、それらの作品で著者のファンになった人に是非とも読んで欲しい一冊。
謎のまま残る部分があるのが残念
★★★★☆
「仮面舞踏会」というから、軽井沢の別荘で元華族などが仮面をつけてパーティーでもしてその中で殺人が起るのかなあ、と思っていたら全然違う話でしたw。もちろん、最後まで読めばちゃんと意味がわかりますが。
ストーリーはしっかり出来ています。何気なく読んでいたいくつかの設定が実は非常に重要な意味を持っていたことが最後にわかったりします。ただ、最後にはっきりと解明されないまま残る部分があるのが残念でした。