漂う雰囲気がなんともいえない
★★★★☆
異色の登場人物です。
決して推理をひけらかしはしません。
しかしその指摘は、
とてつもなく的を射ているのですから。
さらに異色なのは
どこからともなく、現れ、
そしてスーッと消えてしまうこと。
まさにさすらいの探偵なのです。
内容としては短編のため
表現に若干の不足が見られますが
それでも、この異色の探偵の雰囲気が
なんともマッチしていて読み手を不思議な世界へと
連れて行ってくれます。
数少ない、クリスティーの作品では
読めるほうの短編集です。
サタースウェイトとクィン
★★★★★
サタースウェイトとクィンが登場する短編集。12作品。
サタースウェイトは、物語の主人公である。
話によっては69歳となっている。
引退して余生を送っているので、探偵というわけではない。
クィン氏は、突然現れて消えてゆく謎の人である。
サタースウェイト氏が、事件を解決するのを誘導する質問をする。
「事実をありのままに見る」
と、見えてこなかったことが見えてくるという。
出しゃ張りのポアロに対して、
真逆の性格のようだが、
事実に対する接近方法は、似ているかもしれない。
人が思っていることの中に、回答があるという。
ミステリアスかつ味わい深い短編集
★★★★★
メアリ・ウェストマコット名義で書かれた一連の「愛の小説」シリーズなど、
クリスティー作品には、推理小説以外にも、味わい深い作品が多いのですが、
まちがいなく、この作品もそうだと思います。
「道化師」の名前を持ち、どこからともなく現われ、どこからともなく去っていく
不思議な人物、ハーリ・クィン氏。
ただ、あえて彼の行動に法則を求めるとするなら、
彼の現れる所、男女の愛憎ありといった所でしょうか。
私は「クィン氏登場」・「窓ガラスに映る影」・「<鈴と道化服>亭奇聞」・「クルピエの真情」・「海から来た男」・「闇の声」・「死んだ道化役者」・「翼の折れた鳥」・「道化師の小径」が気に入っています。
大人の男女の機微を描いた「クルピエの真情」、ミステリアスな女性メイベルの醸し出す雰囲気が、
ストーリー全体に独特の印象を与えたまま、衝撃の真相へと展開していく、「翼の折れた鳥」、
静かな感動を呼ぶ「海から来た男」、
衝撃的かつ、深い余韻を残す「道化師の小径」が特に印象的でした。
不思議な物語
★★★★★
ハーリ・クィン。いつも黒い服を着ているが、カラフルな衣裳を着て仮面をかぶっているように見える男。恋愛がからんだ事件が起きると現れ、示唆をして去っていく。
彼の示唆を受けて実際に事件を解決するのがサタースウェイト。人間ドラマの観察者。芸術のパトロン。
本格ミステリとはいえないかもしれないが、不思議な魅力を持った短編集。クリスティー、と聞いたらポアロやマープルを思い浮かべる人に読んで欲しい。
評価が分かれる作品かも
★★★☆☆
作品全体に謎めいた雰囲気が漂うという点では「ミステリー」なのでしょうが,ポワロやマープルのような探偵や推理小説的なものを期待して読むとちょっと(私のように)がっかりするかもしれません。むしろ同じクリスティー女史の「パーカーパイン」に近い,人生とか愛情とかを扱った(と一言で片付けたくはないのですが)短編集です。