百人一首ものがたり: 第一話から二十話
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この作品は百人一首のそれぞれの歌を題材にした短編小説集である。2007年から「漢方医薬新聞」に隔週で連載され、2012年に完結したが、その後、紙媒体で出版されることなく長らく幻の著作となっていた。
百人一首はいうまでもなく、平安時代末から鎌倉時代始めを生きた藤原定家が、7世紀後半の天智天皇から13世紀前半の順徳院までの100人の歌人の歌を1首ずつ集めた歌集であり、江戸時代にはカルタとなって庶民にも親しまれるようになった。日本の王朝時代の幕開けから黄昏までをカバーする一代歴史絵巻であり、藤原定家がどのような意図をもって百人一首を編纂したのかについては、本作品の巻頭インタビューで著者の意見が詳しく述べられているので、ぜひお読みいただきたい。
このたび「百人一首ものがたり」を電子書籍化して出版するに当たり、あまりに膨大な量なので、5分冊とすることになった。各話の最初には著者が墨絵で描いた歌人の絵にCGで背景をつけたものが挿入されている。小説の内容は、それぞれの歌の解説というよりも、その歌が詠まれた時代背景を登場人物の会話の中から浮かび上がらせるような構成となっていて、歴史の教科書としても十分に楽しめる内容である。また巻頭には編集者が作成した関連系図が収められており、複雑な人物関係がわかりやすくなっている。
この国には平安・鎌倉、幕末・明治、昭和の戦前・戦後と大きな歴史の断絶があり、そのためにそれ以前の過去が理解しにくくなっている。特に武士が政権を取るようになった鎌倉時代以前の奈良平安時代の精神文化を理解することは極めて難しい。「百人一首ものがたり」はそうした時代への格好の導き手となってくれるに違いない。