氷雪のバイカル: ロシア革命を見た少年
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少年の父・武がハルピンの領事館付き医官として日本を旅立ったのは大正2年6月のことだった。しかしその一年後に第一次世界大戦が始まり、大正6年にはロシア革命が起こった。武はその頃すでに領事館を辞し、イルクーツクで医院を開業していたが、各地で銃撃戦が発生し、シベリアは大混乱となった。
革命のため薬剤が底を突いたので、武は一時帰国して薬品を調達し、妻子を残して再び革命下のロシアへ戻ろうとした。しかし妻の菊江は夫の強い反対を押し切り、8才の息子・進と5才の娘・幸子を伴って、夫とともに大陸に渡った。大正7年5月の事である。
それまで日本の片田舎で暮らしていた少年・進は、果てしなく続く大陸鉄道の窓から想像を絶する世界を見た。父を待っていた謎の女スパイ、ハルピンで出会ったロシア人の美少女。ハルピン駅前を行進する日本の軍隊、それに向かって熱狂的に日章旗を振る日本人会の人々。軍用列車の先頭には銃眼列車が連結され、鉄橋はパルチザンに破壊されていた。イルクーツクの人々は少年の一家を優しく迎えてくれたが、凍った窓の外には硝煙の臭いが漂っていた・・・。
著者は日本陸軍参謀本部が編集した「西伯利(シベリア)出兵史」と父・進の少年時代の記憶を照合し、話の内容が史実とまったく異ならないことを知ると、一年をかけて聞き取りを行い、一冊の書物にまとめた。
8歳の少年の目を通して見たロシア革命下のめくるめく世界が、100年の時を超えて今蘇る。