その点この本は、きちんとしたデータの元に社会学的観点から見た意味
を主張しており、「である」論を整然と述べており心地よささえ覚える。
明かに階級問題は、日本のそれとブルデューのヨーロッパ(フランスを
中心とした)やポール・ファッセルのアメリカのそれとも違う。各国ご
とに表出形態が異なりその意味では、海外の研究を日本にそのままでは
持ち込めない。その点この研究は婚姻形態や学歴などの日本特有の問題
を取り上げており、非常に興味深い。
著者自身が言うように、本書は、「階級!」というタイトルから、一部の読者層が喚起するような「労働者階級の英雄的闘争の一大叙事詩」を
ドラマティックに著したものでも、「戦闘的社会主義あるいは急進的マルクス主義の信仰告白」を綴ったものでもない。
また、社会科学系文献に見られがちな、あいまいで意味不明な日本語表現、あるいは、学問的な背景なしには理解できない箇所は見当たらない。多少、勉強が必要と読者が感じたとしても、各見開きページの左脇に出展・丁寧な注釈が記されており、読書案内としての利用価値も高い。
「階級」が唯一の「概念装置」というわけではないはずである。著者は「概念装置」としての「階級」の有効性を主張しており、私もそれに納得するが、大切なことは、我々ひとりひとりが自分の「概念装置」をもつことにある。著者もそのことを我々に伝えたいはずで、著者がおこなった洞察は我々に先例として示されたものではないか、と私は受け取っている。
最後に。『経営の構想力』というタイトルで、主にビジネスの世界を対象に、「現象に惑わされるのではなく、変化の底にある『大きな流れ』や『本質』を見抜く力」に言及している西浦裕二氏(株式会社ローランド・ベルガー代表取締役兼CEO)は、渡辺氏と同門と聞いている。ふたりが着目した対象、議論に使用した言葉の違いこそあれ、ほぼ同時期に、学問・ビジネスそれぞれの世界における気鋭が、その成果を世に問うたという事実は単なる偶然以上のなにかがあると感じざるを得ない。
本書は、この日本現状を直視し、社会科学的検証の上で、「上記の実態」について「社会認識の概念装置」としてこの「野心作」「階級!」(表紙カバー)を提起した。久々に見る社会科学の学問上で、野心的な問題提起提をしたと著作であると思う(s)。
日本社会の現状に疑問を抱く読者は、この著作は必読の書であろう。