作者にして登場人物が日本人であることに注目、ただ、情欲の深さは「睡魔」や「Z」、大作「血と骨」にも通じるがどうもこの作品ではこれまでに比べるとどろどろさがまだ足りない気がするのはわがままな発言か。
最後の2ページ、女の業の深さを思い知ることになる、それは読まなきゃわからない。タイトルはあくまでもメインが「裏」であることを楽しみたい。
新堂冬樹となるとこれまた闇金融の世界から出てきた作家で、非常に怖い世界を描きつづけている。奥田英朗の『最悪』などは、中所企業主の自転車操業がどんどん出口の無い方向に追い詰めらてゆく過程を事細かに描くことで成立しているようなもの。他にもノワールに近い話などでも、どこかで経済小説の匂いがしてくる作品は最近大変に多い。但し「闇!!」とか「裏」とかいう文字を冠詞として付けた経済小説。
さてその「裏」を書かせるとなかなかに鋭く、思えばどの作品も経済小説と読めなくもなかった梁石日。そのまさにタイトルが『裏と表』。前作『睡魔』では自己啓発セミナーでの資産吸い上げシステムを描き、今回は街でよく見かける金券ショップをだしに使っている。但し、だしであってメインストーリーではない。物語は、前半確かに金券ショップの経営の裏表を活発に描いて、いつもの梁石日小説の元気さ、力強さなどが感じられるのだが、物語は実はとんでもない方向にエスカレートしてゆく。
その中で金券ショップは闇経済の環の中の一つのギアのような役割を果たしているかに見えてくる。主人公がコリアンでないことに珍しさを覚えていたのだが、な!!るほど話の進展と拡大につれて誰が主役かわからなくなってくる。相変わらず自由度の高い書き方だが、最後には取って付けたようにサイドストーリーが明かされる。こんな話は不要だったとも思えるし、ラストが切なくていいようにも思える。いずれにしたって、多重性の小説家として捉えるべき梁石日の独自性と言えるだろう。