本シリーズの第一巻、第二巻はさまざまな時期の作品を収録したオムニバス形式でしたが、第三巻からほぼ初出順に作品を選んでいます。したがって雑誌版「鬼太郎」の第一作の「手」を収録している本巻は、実質的な第一巻といってよいと思います。また収録数が少ないのは、「大海獣」「吸血鬼エリート」が長編だからです。
全編が「墓場の鬼太郎」時代の作品なので、物語が妖怪退治になってしまう以前の、さまざまな鬼太郎を楽しめると思います。たとえば「手」は怪奇ものですし、「吸血木」は幻想色の色濃い傑作です。
長編2作品は貸本マンガ作品をリライトしたものなので、ふつうの長編とは少し毛色が変わっています。ガロの長井氏のことばをかりると、大きな構想のもとに話が展開するというより、短い話がまとまって長編になる短編連作という形式で物語が進みます(いわば紙芝居的な物語展開)。
とくに「吸血木」の点描がすばらしく、まるで音楽が聞こえてきそうな幻想的な作品です。