一夜の夢、夢の時間、オペラ
★★★★★
この著者の書かれるものは、論旨が明確と言いますか、一貫した筋道・歴
史観があり、たなごころを指すように読者を理解に導いてくれます。
オペラはどのようにして生まれたのか、オペラはどうしてお金が掛かるのか、
モーツァルトの斬新性などから、興味深く且つおもしろいエピソードも数多く
楽しみながら読めるのもすごいものです。
大学の先生をなされているそうですが、もしシルバー層向けの講義があるの
なら、聴講生としてお話を聞いてみたいと考えてしまいます。
オペラ史を概観したければ,これです!!
★★★★★
著者は京都大学の研究者で,あとがきによれば,「オペラ劇場という『場』の歴史を辿る」という主題で執筆したものだそうである。
堅苦しい内容ではないか,という懸念はご無用,
素人目線でものすごく分かりやすく書かれている。
というか,単純に面白い。
内容や表現が砕けているのに,意見はしっかりと伝えられており,
オペラ創世記のバロック時代から,映画に娯楽の王座を明け渡す現代までを,
生き生きと綴っている。
歴史概説というのは,えてしてつまらないはずなのだが,相当な文章力・構成力だと思う。
オペラが娯楽の主役ではなくなった原因は映画の台頭,とされ,それもそうだろうが,
個人的には,ミュージカルの誕生も無視できないように思う。
「インディ・ジョーンズ」や「スター・ウォーズ」で名高いジョン・ウィリアムズは,
100年前なら高名なオペラ作曲家になっていただろう,とあったが,
「オペラ座の怪人」や「キャッツ」で名高いアンドリュー・ロイド・ウェーバーも
同様じゃないかなぁ,などと,勝手に思いを膨らませたりして,余韻の残る著書だった。
さて,オペラは,今後も過去の名作の再演を繰り返すことで生き残っていくのだろうか?
相対主義のなかの音楽批評
★★★★★
『西洋音楽史』で「おっ!」と思い、『CD&DVD51で語る西洋音楽史』で完全にファンになり、『音楽の聴き方』で大いなる敬意を抱くようになった岡田暁生の初期の新書を遅ればせながらに手に取った。
この他にも『ピアニストになりたい!』は、勿論刊行後すぐに買っていたが、現在は「読まない読書法」(ピエール・バイヤール)で愉しんでいる最中だ(?)。
本書も期待にたがわぬ好著。評者がオペラに詳しくないだけに一層勉強になる。
「音楽など楽しけりゃよい」という大向こうの音楽観に就いて、著者はそうではなかろうと一貫して主張している。これはある意味で孤独な闘いだ。相対主義のなかで一人戦う暖簾に腕押しの闘いなのだから。その理論的マニフェストとも言えるのが、最新刊の『音楽の聴き方』(中公新書)だ。これは本書や音楽史の仕事の方法論を説いたものともいえよう。
オペラを通して娯楽一般の性質を観た気がします。
★★★★☆
多くの現代人が比較的よく馴染んでいると思われるジャンル(バラエティー番組とかハリウッド映画とか)を引き合いに出してオペラを説明していることもあってか、オペラをまったく知らない私でもとても楽しめました。ただしオペラに特別な思い入れがあるかたは、ひとによっては低俗だと考えているかもしれないジャンルと似ているものとしてオペラを捉えられてはたまらない、と思われるかもしれません。
たとえオペラに興味がなくても、娯楽作品の製作過程に興味を持っているかたや、自らの娯楽作品との関わりかたを省みたいかたにもお薦めかな。
現代はオペラの衰退
★★★★☆
個々のオペラを解説するのではなく、通史を眺めることによって、オペラの本質を見事に描き出した快著。特にオペラの衰退について明快な回答が与えられており、一読の価値がある。
著者はオペラを王侯の娯楽と定義付ける。まず第一に、王侯の莫大な資金がなければオペラは上演することが出来ない。まあ、これは当たり前なのだが、もうひとつのポイントがある。それは宮廷儀礼であるからこそ、次々と新作が必要となったという点である。これに対し、現代のオペラはレパートリーの繰り返しで、新作が上演されることは稀になっている。王侯が富を見せつけるには、新しくてより豪華なものをつくっていくのが一番だが、目の肥えた市民め知識人は「名作」の新たな解釈へと向かっていく。その結果としてオペラは衰退したとされるのである。また現代に生き残ろうとするオペラが抱える様々な矛盾も指摘されている。
なかなかの達見がちりばめられており、面白かった。