グローバル化のもたらす功罪
★★★★☆
MITの研究チームが世界中700件のインタビューの分析を中心に経済のグローバル化がもたらす影響や環境と成功の因果関係、グローバル化に対する日本と米国の対応の相違点などを纏めている。
特に興味深いのは、グローバル化は(先進国の)人間の幸福をもたらすのか否かという視点である。即ち、米国の経営者は国内での生産を減らし、中国などの途上国にアウトソーシングする策を好む。それは途上国の雇用増大をもたらす一方、自国内の雇用はどうなるのか、という課題である。先進国ではグローバル経済の拡大に伴い、別の形での雇用が創出されるとする主張もあるが、平均賃金は必ずしも確保されないとの指摘もある。こうした問題は日本でも同様の傾向がある。
対照的な変化の早いエレクトロニクス業界と遅い繊維業界を比較し、賃金格差の影響が大きく、途上国への雇用の移転が起こり易いと思われがちな(かつ米国では実際に起こっている)繊維業界でも、欧州の一部では自国内に生産拠点を残し、かつ賃金水準も保っている実例も紹介、より付加価値の高い商品に移行し、労働条件を改善していくことが決して無理な課題ではないとしている。
即ち、どの業界・セクターも、安い労働力を求めるという、単一の戦略に支配されるべきではなく、本当の生産性向上を目指し、成長戦略を立てて行くべきとの主張は、グローバル化に対応すべき企業に共通する課題とその解決方法だと思われる。
「多種多様」な「成功モデル」から読者は何を学び得るのか?
★★★☆☆
本書は『Made in America』の続編という位置付けにある。『Made〜』が衰退するアメリカ産業についてその原因を明らかにしたのに対し、本書はその後に復活を遂げたアメリカ多国籍企業やその他の新興企業について、その「成功モデル」が「多種多様」であることを明らかにしている。確かに失敗要因を明らかにすることの方が、成功要因を明らかにすることよりも容易である。同じく緻密で大規模な企業調査をすればするほど、その実態を真摯に描き出そうとすればするほど、本書が「グローバル企業の成功戦略」として「多種多様」な「成功モデル」を是認せざるを得ない流れも非常によく共感できる。しかしそうであったとしても、やはり本書が学術書として何らかの理論的貢献を世に問おうとするのであれば、「グローバル企業の成功戦略」というものの「モデル」について、もう少しその具体的な内容を明確にする必要があったのではないだろうか。「多種多様」であるというのであれば、そこに共通する要素から何らかの統一された「モデル」を描き出せなかったのであろうか。皮肉な言い方になるが、本書の題名や帯の文言に惹かれて購入した読者の多くは、何らかの「モデル」が明確にされていることを期待して本書を購入しているはずである。少なくとも私はそうであった。素晴らしい研究であることは疑いようもないが、この点で強く不満が残ったため「星3つ」とした。