すべての数学は集合論の上に築かれる――集合と位相、そして実数論は、現代数学を学ぶうえでもっとも重要な基礎知識の1つである。なぜなら、実数の体系は、4則等の演算規則の「代数」的な構造、不等号で表される「順序」的な構造、極限概念等の「位相」的な構造を内包した数学的構造物だからである。それらを初学者向けに丁寧に解説したのが本書だ。
著者は東京大学、放送大学などで長年、教鞭をとっているが、大学初年級の微積分の授業では実数論をやらない。それは多くの学生が理解できないし、時間がもったいないからである。自然科学者や高級技術者になるために、実数論は知らなくても困らない。現にえらい物理学者や工学者で実数論を知らない人はいっぱいいるというのだ。
一方で、数学科の学生はきちんとした実数論を学ぶ必要がある。ところが、実数体の存在証明、すなわち有理数体からの完備化による実数体の構成をきちんとかいた本は意外に少ない。そこで本書の出番となる。
本書では、全体を5章に分け、丁寧に実数論を展開している。さらに付録では、公理的集合論の基礎の基礎を、一般学生向けに解説している。著者は「実は、公理的集合論を知らなくても、普通の数学をやるのには少しも困らない。公理的集合論を知らない数学者も多いだろう」と断りつつも、数学者ないし学生は、教養として公理的集合論の初歩を知っている方がよいとの考えで付録にしている。
先に述べた通り、集合論の上に全数学が築かれることは常識である。しかし公理的集合論の授業は非常に少ないのが現実らしい。「この本が日本の数学的風土に、多少なりとも影響を与えてくれれば著者にとってこれにまさる喜びはない」というまえがきからも、著者の数学教育に対する意気込みが感じられる。豊富な問題と詳細な解答にも好感が持てる、良質なテキストだ。(冴木なお)
あと、最近出版された本ということもあってか、字が大きくて綺麗で読みやすい。