長宗我部元親
★★★★☆
土佐の田舎武士を自称し中央への野心を望まぬ元親の生涯が見事にえがかれている。妻菜々との軽快な会話も作品を盛りたてる。嫡男信親に期待をかけながらも何故か信頼を得られない気持ちがよく出ている。歴史小説286作品目の感想。2010/09/17
単なる伝記に留まらない作品
★★★★★
本作品は主に四国を舞台に活躍した戦国大名・長宗我部元親の栄達と凋落を軸に展開する伝記作品ですが、情感溢れる内容は歴史作品の枠を大きく超えたものになっています。
司馬氏はこの作品で元親という人物を通して『人間の持つ心の機微』を実に巧妙に描いてます。物語を「元親の死」で完結せずに「戸次川合戦で嫡男・信親が戦死する場面」を用いて完結に向かう一事からも、その意図を推量できるものと思います。
また物語が進行していく上で登場人物や付随する逸話が大胆に選定されていることにも非常に驚きました。一つ間違えば冗長になりがちな余談も含め、その選定作用で飽きずに読み易くなっているというのもこの作品の大きな特徴です。
個人的には此処まで清々しい読後感に浸れる作品は少ない様に思います。元親という人物を知りたい方は勿論のこと、歴史文学に余り親しんだことのない方にもお勧めできる作品です。
秀吉に屈服した後の元親
★★★★★
苦節20年かけ,元親はついに夢見た四国統一を現実のものとした.それとともに,若き日に予想した織田信長との対立も夢ではなくなった.直接対決を目前にし絶体絶命の状況に陥るが,信長が本能寺に倒れたことにより元親は九死に一生を得る.だがそれもつかの間,次は秀吉が四国に触手を伸ばす・・・.
夢を実現し栄光を手にした男が栄光を手放した時,その後の挫折と苦渋に満ちた人生をどのように生きるか・・・.作品の最後に司馬遼太郎氏は「長宗我部元親において人間の情熱というものを考えようとした」としている.続いて「(本作品で)その主題が充足したかどうかはわからない」と書いているが,個人的には,これほど見事に栄光と挫折を表現した作品はないと感じた.下巻は元親の人生というより,むしろ彼の人生を通じて人間の生き方を表現しているように思えた.
長宗我部元親
★★★★★
司馬遼太郎の夏草の賊を読み終わりました
主人公は戦国時代の四国の覇王 長曽我部元親
土佐に産まれ、一代で四国を平定した彼の人生。
夏草の賊、功名が辻、竜馬がいくを読み比べてみると土佐の国の特殊性や竜馬が育った土壌もわかり得る気がします
歴史って思いがけないとこで繋がってるんだなと思うのは
元親が戦略上、兵士の数を増やすために行った一両具足は、普段田畑を耕してる農民も戦の時は刀を持って武士になれるという制度ですが
これが戦いとは関係ないところで全ての階級の民が国の政治に参加したり身分のない平等思想を生んだりした。
結果的にこれが300年後に土佐藩から尊皇攘夷の多くの志士がでる事になったりしてる。
長曽我部家が滅びたあと功名が辻の山内一豊が土佐の国主になったりとその後も数奇な運命をたどる高知県だけどその始まりであるこの元親の物語も面白くて興味深い。最後泣けます
夢の途中
★★★★★
長曾我部元親のものがたり。
作者は、元親を、臆病さが生み出した、智謀の将としている。本書の前半は、謀略の限りをつくした土佐統一戦を、正室の菜々の視線を交えて語られる。ここでは、元親の腹黒さと対照的に、菜々が、天真爛漫な女性として描かれている。
元親は、四国統一から天下へ向けての夢想のため、戦乱をかけぬけた英雄であるが、信長からは、鳥無き里のこうもりとして軽んじられ、秀吉からも、天下人たる器量なしと断じられていたのが興味深い。
後半では、20年かけて苦心惨憺切り取った領地は、秀吉との戦に敗れ、あっさりとりあげられてしまう。元新の、秀吉という大きな器を見せつけられた衝撃、夢半ばで目覚めさせられた悲嘆は、想像に難くない。秀吉政権下にあって、恭順の姿勢に変わっていくのだが、折々に見せる悔しさは痛々しくもある。
元親と嫡男 信親の挿話は感情移入してしまうこと必定で、島津征伐での信親の最期は胸がうたれる。つづく菜々の逝去も相まって、元親が愚人と化してしまうのがもの悲しい。登場人物が魅力的であればあるほど、その死は痛ましく、元親が、お家断絶の引き金を引いてしまった事情が鮮明になる。
長曾我部盛親が主役の『戦雲の夢』とともにいつか大河ドラマ化して欲しいと思う。