「排除vs排除」の構図ではマズイだろう〜処方箋が欲しい
★★★☆☆
プロレカリアートという造語で知られる知られる著者が「排除」をキーワードに、派遣社員やシングルマザーを初めとする社会の弱者の窮状を怒りを込めて訴えた本。自身の現場ルポが少なく、他者の著書や新聞記事の引用を中心に纏めているので、著者の憤りが素直に伝わって来ない恨みがある。また、同じ文章が何回も出て来る等、推敲が不充分な感じを受ける。
そして、ある事例を採り上げては、社会・企業・地域社会から弱者が「排除」されていると繰り返し訴えるだけで、構成力の乏しさを感じた。「排除」の実例では、確かに著者の意見に頷ける点もあるのだが、本書の欠点は処方箋が書かれていない事にある。著者の憤りが妥当だとしても、「それでは、どうしたら良いか」と言う点が具体的に書かれていないので、どういう社会を我々が築いて行くべきか不明である。本当に困った方が、どういう対応を取ったら良いかも散発的にしか書かれていない。
また、著者の論旨が少しオカシイと思うのは、例えば「派遣切り」において、企業が派遣社員を「排除」していると言って痛罵するが、企業全般を否定している訳ではなく、その救済を企業に求めているように思える点である。企業に「唾を吐く」なら、いっその事、企業(あるいは資本主義社会)を全否定した方が筋が通るのではないか。私には、著者が企業・政府等を都合良く「排除」しているように見えた。「排除vs排除」の不毛の構図である。
社会的弱者に焦点を当てて、"社会の空気"を糾弾するという姿勢は第一弾としては良いと思うが、是非、処方箋に比重を置いた続編を書いて欲しいと思った。
資本主義の光の下の下で
★★★★☆
湯浅誠氏の著書『貧困襲来』から「五重の排除」という概念が紹介される。
教育課程からの排除、企業福祉からの排除、家族福祉からの排除、
公的福祉からの排除、自分自身からの排除。
この貧困への因子は、自殺にも通じると著者はいい、
貧困と、それを理由のひとつとして自殺や犯罪へ走る人々の紹介を行っています。
劣悪な条件で働く派遣労働者、
生活保護を打ち切られ餓死した人。
著者はきわめて彼らに共感的で、
彼らがそのような状況にあるのは上記の「五重の排除」のような原因によるものであり
彼ら自身のみに原因を求めて、解決する問題ではないと説きます。
それと同時に、人を無慈悲に切り捨てる企業や
人を救わない社会システムへの怒りが、強く述べられています。
そんな中、異彩をはなっているのは第8章「民営化された戦争」で紹介される
派遣業務としてイラクで「料理人」として働いた安田順平さんの談話の紹介。
戦争へ人を派遣するということすら、コストカットのために出稼ぎ労働者で補うという
ぞっとするような資本主義が進行しつつある現状が描かれています。
資本主義社会における社会のあり方を考えさせられる本でした。
「宋襄の仁」から、将来のリスク管理として―
★★★★★
低所得層に属する若者たちを追ったドキュメントや
プロレカリアートという造語で知られる知られる著者。
その最新作は「排除」というキーワードを元に現代社会の問題点をつまびらかにした本作。
秋葉原事件の被告人を始め、
寝る場所がほしくて渋谷駅で事件を起こした老女
あるいはタコ部屋のような寮に住まわされ、過酷な状況で働かされる労働者
など逃げ場のない状況へ追いやられた(=排除された)人々の姿が、切々と描かれます。
また、文章が平易であるぶん
著者の他者の絶望的な思考の軌跡をたどろうとするあたたかい心と、
それに耐えうる心の強さがストレートに伝わり
読む者の心を打ちます。
私自身は、社会保障問題については
一般論としての認識は持っていましたが、
あくまでも他人事。
バフェットやビル・ゲイツでもないのに
他者の窮状を思いやりすぎるのは「宋襄の仁」にすぎないと―
しかし、こうした著作を読むと
いまはよくても、あと40〜60年生きる中で、
自分もこうした状況になりかねないという強い危惧にかられました。
そして、他者への同情や共感あるいは社会の分断に対する危惧からではなく、
自分の将来に関するリスク管理という観点から
公的・私的な扶助・支援について考える必要性を痛感しました。
著者と近い見解を持つ方のみならず、きっと何かを動かされるに違いない本書
立場を問わず多くの方に呼んでいただければと思います☆
劣悪な社会環境
★★★★☆
非正規社員の人たちは、「努力が足りない」などという世評で切り捨てられてしまっている。しかし、この非正規社員たちが置かれている環境をこの本で見てみると、「努力が足りない」という言葉では済まされないように感じる。非正規社員の雇用環境・生活保護の実態など一度落ちると社会復帰が難しい日本の社会が書かれている。
評価できる点もあるが、全体としてはまだまだ合格点には達しない
★★☆☆☆
同じ非正規でも学校における非常勤の教職員など、派遣よりも更に劣悪な労働条件を余儀なくされている人たちのことは一切出てこない。最終章を除けば自身のものとしては自分宛のメールぐらいで、この著者の特徴である既存のデータを使い、様々な事例を集めただけの著作であるから仕方ないのかもしれないが、こういう点が取材範囲の狭さ並びに様々な意味での著者の能力の低さを露呈している。『排除の空気に唾を吐け』という題名で帯には「孤立するな」とあるものの、具体的な相談窓口の紹介や生活保護申請の処方箋などは一切ないことも評価を下げる。また男性の犯罪者には「男」と言いながら、女の犯罪者には「女」と言わず「女性」と言う男女差別も見られる。とはいうものの、労働条件をわずかながらでも改善させた取り組みやKY熊本メーデーの活動を紹介したり、派遣切りが問題になった際、派遣労働者は給料が高いくせに貯金をしていないという非難があったが、月給30万というのは求人誌の中のみの虚構で、実際には10万程度しかないことを暴いたことは評価できる。作家と名乗る以上日本語を大切にしてもらいたいので、やや乱暴な書き方や記述の繰り返しが気になるが、全体としてはこなれて読みやすい本にできあがっていると言える。