司馬遼太郎は、公家が土地の支配権を握っていた律令制から、武士が自律する過程として鎌倉期を見ている。源平の争い、頼朝と義経の対立、源氏の途絶と北条氏の隆盛、質朴な鎌倉期の芸術、民衆に受け入れられた仏教思想など鎌倉期を彩る歴史の動きを生き生きと語っている。
金属を用い、開墾や武装する力のある農民が武士のルーツであり、武士は自らの土地を守るために、初めは公家に取り入り、やがて公家と争い、自らの政権を打ち立てた。公家から武家へのパワーシフトの重要性を誰よりも良く理解していたのが頼朝であり、北条氏だったと説明されると、歴史が一本の線として、かつ重層的に見えてくる。
鎌倉時代の記述にとどまらず、時に戦国の北条早雲、秀吉、家康のエピソード。あるいは幕末、明治から昭和の大戦をめぐる帝国海軍の歴史など、縦横に歴史を語る構成は、読者を全く飽きさせない。一気に読み終えた。