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街道をゆく (42) (朝日文庫)

価格: ¥504
カテゴリ: 文庫
ブランド: 朝日新聞社
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1960年に『梟の城』で直木賞を受賞して、1996年に亡くなるまで日本と日本人のあり方を見つめてきた司馬遼太郎。ライフワークともいえる全43巻にも及ぶ「街道をゆく」シリーズは、日本はもとより世界中の街道を実際に歩いたうえ「司馬史観」を語るエッセイ集で、NHKでテレビ化もされた。本書は、同シリーズの中で唯一半島の名称がタイトルになっているが、主に鎌倉と昭和という2つの時代から、三浦半島が日本史の中で果たした役割を探っている。
半島の西側に突如として登場する鎌倉幕府は、平安京遷都以来初めて、京都以外に出現した政府である。関東武士たちの闊歩(かっぽ)した跡をたどりながら、著者は3代で途絶える源氏の政権や、滅ぼされた豪族三浦氏など「生死はいかにもあざやかだった」関東武士たちの、この政府にかけた思いにういて筆をすすめていく。
秀吉時代や開港当時のエピソードをはさんで、後半の時代は近代に飛ぶ。帝国海軍と横須賀という土地について語りながら、「海軍士官は、スマートであれ」という明治時代にイギリス海軍将校が残した教えを、消滅の瞬間まで守った海軍を紹介していく。その語り口からは、同じ旧軍出身ながら、陸軍にいた著者が海軍をうらやましく思っていることが伝わってくる。小説『坂の上の雲』のために旧海軍士官たちに行った「三笠」艦上での取材の裏話などを語り、最後は鎌倉時代に戻り、足利・新田氏によって鎌倉が陥落したときのエピソードで本書は終わる。小説化することのなかった昭和に対する著者の思いが伝わる貴重な1冊である。(鏑木隆一郎)
鎌倉行きのチケットを取ってしまいました。 ★★★★★
三浦半島から鎌倉、横須賀という地を丁寧に描写しながら、流れるように話は移り替わり、いつの間に歴史や人物の魅力に引き込まれてしまう筆致はさすがです。

こんなところにいってみたいなーと思っていたら、いつの間にか「この時代から日本らしい歴史がはじまると極論してもいい」と司馬さんに言わしめる鎌倉幕府の成立や、源頼朝の果たした役割についての話になっていて、その考察に感嘆させられてしまいます。
と思うと、話は明治の海軍軍人へと飛んで行き、鎌倉武士を語る文章とも重なって、日本的な爽快感あふれる人物像に半強制的に思いを馳せさせられてしまいます。

旅行記であり、歴史語りでもある一粒で何度もおいしい作品です。私事ですが地元からほとんど出たことがない私に鎌倉行きのチケットを取らせてしまった作品です。それだけの魅力と力のある作品だと思います。
武家政権誕生の理由を司馬史観で看破した面白い1冊です ★★★★★
次作が未完となってしまったため、完結した作品としてはシリーズ最終にあたる1冊です。
今作では、三浦半島を舞台に、「鎌倉幕府という武家政権が、なぜ、日本史上、初めて発足し得たのか」を中心に語られます。その理由は、レビューの常として、種明かしはできませんが、これほど、明快に、そして面白く、武家政権の発足の理由を看破した本はないのではと思える興味深い内容になっています。
また、後半は、横須賀を舞台としての、第二次世界大戦前後における海軍の物語に軸足がおかれるのですが、海軍の人々の生き方(時に、死に方)も、興味深く読めます。
武士といい、海軍といい、昔の男性は、文字通り、男らしかったのだなあと感じさせる1冊でした。
三浦半島育ちです。 ★★★★★
現在は離れて暮らしていますが高校まで横須賀で育ちました。この本を読んで自分は何という土地に育っていたのだろう!と驚きました。最終的には世界でも稀有な精神性を持つに至った武士。その社会的階級を確立させた源氏や北条氏の重要で微妙な歴史的位置、武家政権勃興期のカオスのような時代背景、そして鎌倉武士・坂東武者と呼ばれるその土俗的で勇猛な気風。加えて明治から昭和にかけての海軍軍人たちの矜持、その軍への愛着。武でありながら卑ではない、気高いひとびとの存在感が際立つ、街道をゆくの中でも珠玉の作品ではないでしょうか?自分の血液の中にもこの蒸留酒のような気風が少しでも残っていたらなあと思わず溜息をもらしてしまいました。
三浦半島と司馬先生の視点 ★★★★★
本書と泉鏡花の「草迷宮」を読めば、
三浦半島の自然や歴史が身近になること請け合いです。
目の前に広がる丘陵、入江等、三浦半島の風景は、
鎌倉時代や第二次大戦期も変わることなく存在していたのだと、感慨を持ちます。
司馬先生の作品は常に歴史の醍醐味を感じさせてくださいますが、
本作は三浦半島という身近な場所を題材にしているので、
いっそう面白みが増すように思います。
わくわく、ドキドキの鎌倉幕府成立期 ★★★★★
1192年、日本で初めての武家政権が鎌倉に誕生したことは日本史の授業で習った。だが、丘陵がちで稲作に不適なこの地に大きな勢力が生まれたのはなぜか? 関東の武士はなぜ一介の流人であった源頼朝に従ったのか? あらためて考えてみると、不思議に思うことが多い。

司馬遼太郎は、公家が土地の支配権を握っていた律令制から、武士が自律する過程として鎌倉期を見ている。源平の争い、頼朝と義経の対立、源氏の途絶と北条氏の隆盛、質朴な鎌倉期の芸術、民衆に受け入れられた仏教思想など鎌倉期を彩る歴史の動きを生き生きと語っている。

金属を用い、開墾や武装する力のある農民が武士のルーツであり、武士は自らの土地を守るために、初めは公家に取り入り、やがて公家と争い、自らの政権を打ち立てた。公家から武家へのパワーシフトの重要性を誰よりも良く理解していたのが頼朝であり、北条氏だったと説明されると、歴史が一本の線として、かつ重層的に見えてくる。

鎌倉時代の記述にとどまらず、時に戦国の北条早雲、秀吉、家康のエピソード。あるいは幕末、明治から昭和の大戦をめぐる帝国海軍の歴史など、縦横に歴史を語る構成は、読者を全く飽きさせない。一気に読み終えた。