ことばのもつ重み
★★★★★
宮大工という、ことばにならない世界をことばで語った本。最後の棟梁と云われた
西岡常一の唯一の弟子であり、かつ現代に生きる大工を育てたという二面が、
ことばに力を持たせている。既に『木のいのち 木のこころ』で著者はその世界を
語っているのだが、還暦にして引退した背景を語ることばに、匠が現代を生きる
ことの難しさや重要性を改めて観ずる。
どの職業世界にもおそらくはあり、本来はあってしかるべき言語化できない世界と
いうものは、言語を扱う場では往々にして忘れられがちであることから、職人に
徹する姿勢から生まれる本書の主張の重要性は指摘してしすぎることはないだろう。
著者小川氏がどう思うかは別として、重みのあることばは、西岡常一を知る存在
だからだろう、ゆえにこの本が最後なのだろうと思うと、寂しくもある。