喘息持ちのレズビアン女子高生マドカが、女装癖のある男子高生の幽霊“サファイア”を
相棒に、街の平和を脅かす都市伝説的な異常犯罪者たちと闘うファンタジック・ミステリ。

マドカたちが対決することになる犯罪者たちの造形はどれも凝っており、彼らが
引き起こす犯罪すべてにアクチュアルかつ画期的な趣向が盛り込まれています。


最初の「もりのさる」は、中学生の間で流行っているという
四色の猿探しの謎。中学生限定、というのがポイントです。

次の「ドッグキラー」は、盲導犬殺し。犬を殺された少女が、その時使われた
凶器を隠していたのはなぜなのか？　二重の意味で追い詰められた少女の
過酷な運命が胸に迫ります。

続く「インベイジョン」は、目的不明の家宅侵入者。狙われた女性の共通点は、海外へ
の渡航経験、予約した覚えがないのに午前４時20分の映像が録画されていたビデオ、
タワー型のパソコンを所有の三点。被害者が感じた“気配”を起点にさまざまな可能性
を検討し、犯人像を解析していく緻密なディスカッションが素晴らしいです。

物語の佳境をになう「ラフレシア」は、花を使う毒物散布犯。犯人の正体を
暗示する民話の一節「あめはやんでいるのか？」が強烈な印象を残します。

そして、最後の敵、千度の炎を自在に操る「グレイマン」
に対し、マドカはひとりで立ち向かっていくことに……。


そうした、犯罪者たちとの闘いを通じて、トラウマを抱えるマドカの再生が描かれていくの
ですが、相棒であるサファイアの驚くべき正体も本作の大きな読みどころとなっています。

サファイアの正体を暗示する伏線は、各章のエピソードのなかに、
巧みに埋め込まれており、真相がわかった時の感慨は格別です。


少年少女の出会い、冒険、別れ――そして再会という王道の物語
を美しく円環を閉じるように描き切った本作は、ミステリに留まらず、
エンターテインメントとして、間然する所がない傑作といえます。