司法試験定義趣旨論証集(会社法)
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1.本書は、司法試験に出題可能性のある会社法の定義(意義)、趣旨、論証をまとめ、論文試験対策上、文字情報として覚えておくべき事項を、一元化したものです。
個々の項目ごとに、「答案に書くために覚える必要があるか」という観点から、AAからCまでの重要度のランクを付しました。基本書等で重要な基本概念とされるものであっても、あまり答案に書く機会はないと判断されるものについては、低めのランクとなっています。また、「書く機会はそれなりにあるけれども、知らなくても書けるだろう」というようなものも、低めのランクとしています。
2.現在の司法試験・予備試験の論文式試験における合格答案の要件は、概ね
(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。
という3つです。
上記のうち、(1)に必要な能力は、基本書等で基本論点を理解し、具体的な事例を素材にした演習等によって、どのような場合にどのような論点が問題になるかということを見分ける訓練をすることで、修得することができます。また、(3)に必要な能力は、事例問題を繰り返し解くことで、身に付けることが可能です。
一方で、(2)は、規範を覚えることで対処するよりありません。覚えていなければ、答案に書くことはできないからです。本書は、主に上記(2)に必要な記憶を効率的に行うための教材です。
特に、会社法は、事例処理の傾向の強い科目です。論点の数が多く、趣旨・本質に遡った論証をしていたのでは、書き切れなくなってしまいます。そのため、上記(1)から(3)までを淡々と行うだけで、場合によってはかなり上位の合格答案となることも珍しくありません。本書は、そのような傾向を踏まえ、端的な規範定立に徹した論証集となっています。
3.従来型の論証の中には、現在の論文式試験の傾向に対応できておらず、とても実際の答案には書けないようなものも多いように思います。今の受験生から見ると、なぜ、あのような論証になっているのか、不思議に思えるでしょう。
その主な原因は、論証集や論点ブロックカードと呼ばれるものが旧司法試験時代に開発されたこと、そのような旧司法試験時代の論証の形式が、現在もそのまま残ってしまっていることにあると思います。
かつての旧司法試験では、商法は択一(短答)がないという意味で、「下三法」(商法、民訴法、刑訴法)と呼ばれ、ほとんど知識のない状態で受験する人が多い科目でした。また、当時は、若者の法曹離れを防ぐために、知識がなくても受かる論文でなくてはならない、ということが、強く主張されていたのです(その極端な現れが、合格枠制(丙案)でした)。
そのため、細かい判例の規範を知らないのは当たり前、そんなものは知らなくてもいい、制度の本質さえ理解していれば合格答案が書ける、と指導され、実際に、そのような問題が出題されていました。資本の機能から合名会社と株式会社を比較して説明させたり、機関の構造論から株主総会、取締役(会)、監査役(会)の権限の違いを説明させる問題などがその典型です。
例えば、以下のような問題です。
(平成2年商法第1問)
合名会社と株式会社における社員の地位の違いは、投下資本の回収の方法にどのように反映しているか。
(平成9年商法第1問)
株式会社の取締役の職務執行に対する監査役による監査に関して、取締役会による監督と比較して、その範囲および方法について論ぜよ。
上記のような問題を解くためには、細かい判例の規範ではなく、制度の本質に遡った論述が必要とされます。旧司法試験時代の論証は、上記のような問題に対処するために、資本制度の本質に遡った論証や、機関の構造論に遡った論証となっていたのです。
当時は、そのような抽象論こそが合否を分ける重要なポイントであり、「端的に規範を書いて当てはめる」などという発想自体、あり得なかったのです。当時の論証が、現在の目からみると、とても答案に書けないような抽象論を展開しているように見えるのは、受験生に理解してもらうための配慮をしたとか、そのような理由ではなく、そのような論証こそが合格のために有用だったからにほかなりません。
そして、当時は、どこまでが理由付けで、どこからが当てはめに直接使用する規範なのかということを、明確に区別する意識が、現在と比較すると格段に希薄でした。それは、上記のような出題がされていた状況の中では、ある程度はやむを得なかったし、また、それで不都合もなかったのです。当時の論証の中に、どこまでが趣旨や理由付けで、どこからが規範なのか、判然としないものがあったり、それをベースにした解答例の中に、規範ではなく、理由付けで用いた部分を当てはめているかのような(現在の受験生からすると意味不明な)ものがあるのも、そのような事情によるのです。
本書は、上記のような旧司法試験時代の名残りを残した論証とは全く異なる、現在の司法試験の傾向に合致した新しい論証集を目指して作成しました。覚えてすぐ使える、そのまま書ける論証です。出来上がったものを見ると、「論証集」というより、「規範集」の表現の方が、より的確かもしれません。
4.近時の下級審等で問題になったものを含め、幅広い論点を網羅したのも、本書の特徴です。最も新しいものとしては、最決平27・3・26(道東セイコーフレッシュフーズ事件)を収録しています。
かつての旧司法試験では、前記のとおり、「細かい判例の規範を知らなくても、趣旨・本質さえ知っていれば書ける」が前提になっていました。しかし、現在の司法試験は、そうではありません。当該論点を解決する規範を明示することが、極めて重要となっています。規範を知らないと、「規範→当てはめ」のパターンに載せることすら難しくなります。このことは、過去問を実際に検討すれば分かることだろうと思います。ですから、できる限り幅広く規範を知っておく必要があるのです。
とはいえ、全部覚えなければ受からない、というわけではありません。Aランクは全て覚えたいところですが、Bランクは、半分程度でも十分合格できるレベルでしょう。Cランクに関しては、知らなくても何とかなる場合の方が多いでしょう。
5.平成17年に現在の会社法が制定されて以降、立案担当者と学者の理解の乖離が大きいのが、会社法の特徴です。本書は、基本的に立案担当者の立場に立っています。
主な例外は、分配可能額を超える剰余金配当等に関する解釈論です。
本書は、無効説+自己株式取得につき相対的無効説を採用しています。その主な理由は、分配可能額超過の場合と他の無効原因によって無効になった場合とを一元的に処理できることが、理解の上でも答案に書く際にも重要だということにあります(立案担当者が「効力を生じた日」(463条1項)という法制上有効を意味しない用例(無効の訴えにおける「効力が生じた日」(828条1項各号)参照)を主要な根拠としていて、その考え方自体が後付けではないかと疑われる点も、理由の1つです。)。
6.また、本書は、平成26年会社法改正に対応し、これに関連した論点も収録しています。
上記改正以降に改定された体系書等の中には、改正事項につき必ずしも立案担当者の見解とは合致しない説明がされているものもあるようです。そもそも、学術体系書は受験対策のためのものではありませんから、著者である学者の見解が前面に出るのは当然のことですが、受験対策として用いる場合には、注意を要します。本書では、現段階で可能な限り、立案担当者の考え方に依拠した論証を作成しました。
7.なお、各判例の判例名は、無理して覚える必要はありません。
答案に書く際に、判例名で特定できると便利な場合もあります。覚えようとしなくても、講義やゼミで取り上げられたとか、名称のインパクトで何となく覚えてしまったということも、あると思います。
その場合には、判例名で判例を特定した上で引用して構わないという意味で、判例名を付しているに過ぎない、その程度のものとして、利用して頂ければと思います。
8.本書が、受験生の方々の学習に少しでも役に立てば幸いです。