現代人が見落としがちな事が載っている
★★★☆☆
短めで、濃くまとまったエッセイを集めた作品。
どれもが老人の繰り言と思う可能性を孕んでいるが、
よく読むと決してそんなことはなく、
都会で毎日流されるままに生活していると、
どれもが目から鱗が落ちるような、自然に生きる人間として当たり前の事が書かれている。
自然の移ろいや儚さに目もくれず、
ただただ仕事だけをこなして忙しく生きる人にお勧めなのだが、
或いは、そう言った人にはつまらないと思えるかも知れない。
よしなしごと
★★★☆☆
1993年に出た単行本の文庫化。
さまざまな雑誌に発表されたエッセイ57篇をまとめたもの。どれもごく短く、すっと読める。題材となっているのは、日常のよしなしごと。夕顔の花、初鮎の知らせ、能、吉田健一、明恵上人など。面白いのは、語り口が色々なこと。すっぱり切っているものもあれば、ぼんやりと連想をつなげていくもの、なんとなく言い淀んでいるものもある。テーマによってスタイルがバラバラなのが不思議。そこに味があると見るべきか。
骨董、身近な偉人たちの話も。
忘れていたものを気づかされる。
★★★★★
この「夕顔」は晩年にまとめられたものであるが、白州正子のエッセンスがぎゅっと詰まっていて大変お得な本だと思う。ひとつひとつは短い随筆なので誰にとってもさらりと読めることだろう。だが僕には一語、一節、一行が刃物のように鋭く感じられ、味わうというよりも、対峙を求められるように感じて思わず姿勢を正してしまう。小説家の言葉とは本来そういうものであろう。あたりまえのことを、あたりまえに捉えておられる白州さんの視線。お得と言ったのはそうした揺るぎない視座からのはっとするような驚きの数々。とにかく全方位に向けられる白州さんの鋭い視線は、今の僕などには教えられるばかりで、白州さんの脳髄によぎるさまざまな連想を味わう余裕はまったくない。白州さんに比べるまでもなく知識も経験も何もかも自分はまるで赤ん坊のようにあらゆるものが足りないわけだが、それでも必死に文章を追いかけていくと、知識の集積のさらに奥にある物事に向かう精神について思いを馳せさせられる。そして白洲さんの精神に忘れていたものを気づかされる。
軽みと重み
★★★★☆
普段よりぐっとくだけた文章、内容で始まる随筆集。その訳はスタートのⅠ章が新幹線内の雑誌「L&G」向けに、年齢・文化的な背景など読者層が分からない中で、いつになく柔らかく彼女がその時々に感じたことを書いているから。Ⅱ・Ⅲと進むにつれて編者の意図する(?)白洲ワールドへ導かれていくのだが、違和感はなくて彼女のファンは勿論、初めて白洲さんにふれる人もすんなりと入っていけると感じる。得意とする日本の心を表象する和歌の世界、特に西行を書いたものは小品だが、心に響く。今の日本には少なくなった旧家のお嬢さんの知性という感じでしょうか、白洲さんは。