金融工学、こんなに面白い (文春新書)
価格: ¥725
金融工学とは、文字通り金融の振る舞いを工学的アプローチによって解明する学問であり、情報科学とともに金融業界の活性化と新生の基礎を築くものとして、期待がされている分野だ。一方、新時代に向かう経済のなかで中核的役割を担うとされながら、高度な金融理論や数学理論に立脚していることから「敷居が高く、近寄りがたい」という声が上がっていることも事実だろう。本書は、難解な用語や数式を極力排除し、実際の金融界におけるエピソードや「ヴェニスの商人」「エデンの東」など、一般の人にも馴染みの深い文学作品や映画を例にとりながら、金融工学の本質をわかりやすく説いた入門書である。株価予想の可能性やリスクとリターンの関係など、金融構造の基本から、リスクヘッジの思想や方法を提示。さらに、1970年代に脚光を浴びつつ、すでに「終わった理論」とされてきた「ベータ投資理論」を、マーケット・リスクへの立体的な評価の側面から再評価している。また先物取引やオプションなどに関しても、発生の歴史からその構造が詳しく述べられており、現代のファイナンシャル理論を概観する手助けとなるだろう。さらにIT革命のなかで、経済をいかにとらえるかというテーマにも取り組み、「実社会へのアウトプット」という立場から金融における「工学」的視点の確立を訴える本書は、「株で儲けよう」といったたぐいの実用書的なハデさはないが、より本質的に時代をとらえる一助となるだろう。(太田利之)