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谷崎潤一郎=渡辺千萬子往復書簡 (中公文庫)

価格: ¥1,000
カテゴリ: 文庫
ブランド: 中央公論新社
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   谷崎ファンなら、ページを繰る手が震えるに違いない。
   渡辺千萬子は、谷崎にとっては義理の娘にあたり、『瘋癲老人日記』のヒロイン颯子のモデルとなったといわれる人物である。この晩年の傑作の出版をはさんで十年あまりの間に、作家と実在のモデルとの間に交わされた、300通に近い往復書簡が存在し、しかもそれを読むことができるというのだ。偉大な作家の創作術の秘密を、一体どのように暴いてくれるのだろうか?

 「僕は君のためならどんな高価なものでも高価とは思いません」
   衣服や宝石を惜しみなく買い与え、嫁のスラックス姿に「文学的感興」を催し、「あなたの靴に踏まれたい」という内容の歌を贈る文豪の姿は、「日記」の瘋癲老人そのままだ。
   その一方でコケティッシュな妖婦颯子と渡辺夫人とのあまりの違いにも驚かされる。彼女の文面は知性と鋭い感性にあふれ、その流麗な文章は文豪のものと並べていささかも見劣りがしない。それどころか『瘋癲老人日記』をはじめ、多くの作品の創作過程にまで細かくアドバイスをし、谷崎はそれに忠実に従っているのである。

   実在のモデルから谷崎がいかに小説の人物を創出したか、その過程に思いを馳せるのも楽しいが、本書はそれを越えて、死期を間近にした作家と一女性の深い精神的な絆が克明に浮かび上がってくるのである。
   傑作誕生の裏側を知りたいという、いささか下世話な欲求から読み始めたとしても、いつの間にかいつもの谷崎文学の独特な世界へと吸い込まれていく。不思議な本である。(三木秀則)

文学的触媒反応の記録 ★★★★☆
谷崎氏は実生活に遭遇する様々な事象から、想像の翼を広げて仮想空間を作り出し、虚構世界を文章として展開するのを得意とした文士だったようです。したがって、その脳内に発酵する化学反応には必然的に「触媒」とも言えるモデルが不可欠であったわけですが、それはまるで出世作「刺青」での有名な件と逆説的なのが面白い点でもあります。本作は、谷崎作品の霊感を呼んだ多くの触媒の、特に優れた一人と谷崎氏との「熱き鼓動を封印した通心録」であります。谷崎氏の海外宛の手紙を英訳する等の実際的な教養、物怖じしない凛とした強い心、若い女性らしい甘えや時に見せる悩める姿が、文豪の創造力を刺激した事は間違いなく、また若き千萬子さんの心が大いなる精神に包まれていく写実的な様も印象的です。

往復書簡集の他、千萬子さんによる随筆が五篇収録されています。それらの内でも特に「送り返された手紙」に記された文章、最晩年の谷崎氏が松子夫人という障壁の向うから、著者へ投げかけた視線への彼女の想いが印象的であります。そしてもうひとつ「瘋癲老人日記雑感」は、この小説についてのおそらくは最上のレビューと言えるものでもあり、「瘋癲老人日記」とこの書簡集を繋ぐ非常に興味深いエッセイです。
谷崎晩年の謎がついに読めた! ★★★★☆
新刊発売の広告を目にしたとき、「とうとう・・」と、嬉しいような怖いような胸騒ぎをおぼえました。書簡の文字を追うだけで、千萬子と谷崎、さらに松子夫人、叔母重子らとの関わりが「あぶりだし」のように浮かんでくる面白さ。晩年の谷崎像がこれまであまり明らかにされなかった謎も、これを読んで解けました。それにしても、老いてなお燃えさかりやまなかった谷崎の、「女なるもの」への崇拝にはただ驚愕するばかり。とくに(最後に考えていた構想)のくだりは圧巻です。これでまた谷崎に惚れ直すファンも多いことでしょう。書簡の公開を決心してくださった渡辺千萬子さんには感謝の言葉もみつかりません。