お見事!
★★★★☆
面白いかと聞かれると、正直微妙なんだけど、凄いかと聞かれれば、凄いですよ。よく訳したよなぁ。
原著はフランス語で最頻度の「E」を使わずに書かれている。では、日本語版はどうしているかというと、い段、つまり「い・き・し・ち・に・ひ・み・ゐ・り」が一切使われていない。また、字が消滅したという本質を残すため、原著とは章立てや数字、引用文、登場人物の名前など、改変は多岐にわたる。ここまで来ると、別物とは言わないまでも、翻訳ではなく翻訳者の言語遊戯。まぁ、お見事。
そんなわけで、苦労がにじみ出ている訳者の解説が一番面白い(笑)。解説を読んでから、あちこちに仕掛けられた「遊び」を解くのも楽しい。
ただ、日本語はひらがな、カタカナ、漢字があり、特に漢字は音は間違ってても、形に意味を持たせられるから、多少有利な気がするけど、どうなんでしょ?
肝心(?)のストーリーはメタフィクションなんだけど、どうしても「文字抜き」の話題に目がいく上に、かなりなんだそりゃなだったものの、解説によると、ホロコーストを暗示しているらしく、次々と登場人物が消えていく展開と、語るべく言葉も奪われるという構成に納得。
装丁も凝ってるし、奇書としてもオススメ。
次に読む本に「い段」が入ってる時になって困るという弊害が(笑)