読みながら・・・
★★★★★
「風紋」のその後のお話。
事件というものは、起こした当人だけの問題ではなく、
その周囲にいる人間の人生に大きく影響を与えるということを痛感させられる。
文庫の裏の乃南アサさんのコメントにも書かれているが
「事件というものは必ず悲しみと憎しみの連鎖を生む。
そして、いちばん弱いものが最も深く傷つく」ことの意味が伝わってくる作品。
事件当時、多感な時期の真裕子のその後の人生に与えた影響。
加害者の息子の大輔に突きつけられる堪え難い現実。
電車の中でこの作品を読みながら、何度も涙を拭いた記憶がある。
真裕子の純粋すぎるがゆえの許せない思いや諦め、考え方に悲しさを感じた。
真裕子や大輔のような思いをする人がこれ以上多くならないことを願う。
やりきれません
★★★★★
何気なしに読み始め、大輔の小学生とは思えない無軌道ぶりに驚き、
レビューを読んで、慌てて「風紋」を購入、そちらを読んでから改めて「晩鐘」に入りました。
事件が起こってから7年後の話です。
真裕子の立ち直りの予感で終わった「風紋」でしたが、
心の傷はそう簡単に癒えるものではありませんでした。
姉や父は、彼女から見たらまるで何事もなかったかのように
新しい道を歩み始めていましたが、それも真裕子にとっては悲しみを増す因子でした。
一方の香織(犯人の妻)は同情しかねるほどに堕落し、
子供たちを実家に預けっぱなしにし、その結果、
子供たちは普通の小学生らしい子供でなくなってしまったのだと思われます。
何もそこまで、と言いたくなりましたが、
一つの事件が多くの人々を巻き込み人生を狂わせてしまうことは
痛いほどに感じられました。まさに痛いほどに。
真裕子は救われましたが、犯人の子供たちが哀れでした。
本であまりなくことのない私が、思わず涙した作品です。
決して楽しい本ではありませんが、是非ともお勧めしたい本です。
良いです!
★★★★★
風紋よりこちらの方が好きです。風紋のその後になりますが、こちらだけでも充分読みごたえあります。
犯罪被害者のその後となりますが、明るい部分より暗い部分が多少際立ち、重苦しさもありますが、きっと現実はそんなものなのでしょう。最後に多少光があるのが救われました。
心にぐっとくる作品でした。
世間はとっくに忘れた事件でも、当事者達には終わりは来ない
★★★★☆
あれから7年。
父親は再婚し姉は新しい家庭を持った。
真裕子は7年経った今もひとりぼっちで孤独に耐えている。
殺人犯の子ども達は、自分の両親の事は知らされず遠い長崎で祖父母と暮らす。
そしてその妻は、過去に平凡な教師の妻だったことなどなかったかのように、なりふり構わず生きてきた。
一つの犯罪は、何年経っても終わる事を知らない。
一人でいる事に耐え切れなくて、好きでもない男と不倫に陥る真裕子。
父親が殺人犯だとも知らず、叔母だと信じていた母親と2人、東京で暮らす事になってしまった大輔。
変に大人びて心の底から甘える事を知らない大輔は、これから先どんな大人に成長していくのだろう。
癒されるはずのない心の傷は、いつか誰かが癒してくれるのだろうか。大輔は実父の犯した罪をどのような形で知ってしまうのだろうか。
乃南さんらしい心の描き方が最高の作品。
ミステリーというよりはドキュメンタリーっぽいかも
★★★★☆
「風紋」「晩鐘」と読み進んできて、片時も目を離せない、いったい何時になったら肩の荷が下りるのか、ずっとそんな感触を味わい続けてきました。結局、一連の事件は一つの帰結を見るけれど、でも、真の意味で安堵はもたらされない。これは机上の空論等ではなく、実在のドキュメンタリーに近いと強く感じました。
私自身、8歳年上の新聞記者(しかも社会部)と結婚したため、真裕子の心理が手に取るようにわかる件があります。更に今は二人の性格の異なる娘を持つ身となり、全く違う二つの視点から本書の内容に共感を抱きました。乃南氏は、殺害された母の心情については敢えて殆ど描写していませんが、母が女性としての自分を求めた心理そして当時高校生だった真裕子が、亡き母の代わりとなる存在として知らず知らず建部に惹かれていく過程の心理は、もはや他人事ではありません。犯罪加害者側の登場人物の崩壊の過程は、何もここまでおとしめなくとも…と感じるほど徹底していますが、この小説が現代の犯罪抑止力になれば、乃南氏の意図も報われると言えるかもしれません。