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坑夫 (新潮文庫)

価格: ¥452
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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うまい描き方 ★★★★☆
主人公の心の奥底を丁寧に表現するドキュメント。
東京を飛び出した主人公が長蔵さんと出会い
「抗夫」になれば儲かると言われ行く先々で自分を見つめながら
ついていく。

特に前半部分の心の描写、意識の流れが絶妙です。
漱石先生はこういう書き方もできるんだな〜と
恐れ入った次第です。
どん底に突き落とされ、何度も死を覚悟した。
そんな中でささやかな生き方を見つめなおしていく主人公。

物語の中にすごくのめりこんでしまいました。
This is ”U”. ★★★★★
青春の谷へ落ちた人・飛び込んだ人は必読でしょう。
谷底から這い上がるまでの意識の流れがリアルに描かれています。

過去を振り返って語られる物語なので、
意識の描写が簡潔ではなく、時が止まったかのように詳細。
その詳細な描写が、意識の流れを、より立体的に浮かび上がらせる。

淡々と生身の感覚で語られる表現は、
プロの精神学者が表現した論理よりも、切実に、リアルに迫ってくる。

暗闇の中で自己と徹底的に向き合い、
諦めようとしたり、這い上がろうとしたり…。
主人公の揺れに揺れ動く葛藤がひしひしと伝わってきます。

「それでも、少しでも上に行ければ、それでいいんだ。」

本書のように、暗闇から抜けるときには、
意外にあっさり抜けてしまうものかもしれませんね。

漱石作品で最もおもしろい ★★★★★
2人の少女がきっかけで家出を決意する青年の、暗く堕落した坑夫に成り下がっていく様を描いた作品…
と書けばそれまでだけれども、この青年の、
現実問題に悩んで葛藤したり、気持ちが右へ左へと定まらなかったり、堕落していく自分の姿に嫌気がさしたり、下劣で品のない人間にむかついたり…
といったような主人公の境遇は、同じような経験のある(たとえ家出経験はなくとも)同年代の少年少女なら些細な心理描写も深く通じるものがあるとおもう。(特に安さんとの出会いの場面は最高!!)
夏目漱石にしてはめずらしく小説の構成を排除したルポタージュ的作品で、漱石作品の中ではかなり評価の低い作品ではある。けれども、主人公と同じ頃の齢の(十代二十代ぐらいの)少年少女には是非薦めたい作品であり、この作品『坑夫』で漱石に対する価値観が一遍に変わってしまうはずでしょう!
論文にも通じるロジカルさ ★★★☆☆
『虞美人草』の次に発表されたこともあり、非常に地味な本作。前作が絢爛豪華で劇的、典型的な勧善懲悪モノだったのに対し、事件は一切起こらず、人物を型に嵌めることを極端に嫌うスタンスで貫かれています。こうしたアプローチの180度の転換は『草枕』と『野分』の関係にも似ています。

特筆すべきは、何にも起こらない中で主人公の心境変化をありのまま克明に且つロジカルに順を追って描きとめようとする姿勢で、小説というより論文を読んでいる趣さえあります。末尾で「小説ではなく事実を書いた」とある如く、自ら大学で講義した『文学論』にも基き近代的アプローチで従来にない新たな「小説」を創作しようとしたのかも知れません。

余談ながら作者は坑夫を人間以下の代名詞として捉えており、職業に貴賎があることは今も昔も変わりませんが、当時はそれを公言しても問題なかったことが窺えます。
現実を知るきっかけに ★★★★★
10年以上前の話になりますが、社員同士の打ち上げの席だったように記憶しています。

かつて炭鉱で働いておられた高齢者から、座敷の隅にへばりついていた処を呼ばれて、返杯をすませたおりに、仕事や趣味のお話を伺ううちに炭鉱の話を伺いました。

坑内での重労働の後は、飯は食い放題、異性と遊び放題という珍味酒肴の席に興を添える話であったと思います。

その後、上野英信や森崎和江などの著作を読むうちに辿り着きました。

若い頃、どうしても或る場所に行くのが嫌で、がむしゃらに他所へ出かけていましたが、 逃げてもいずれは現実を知らなければならなくなる。ということを考えさせてくれた一冊です。

3年前に会社をかわってから、その高齢者ともおつきあいがなくなり、お話しを伺うことはできなくなってしまいましたが、今も『坑夫』は愛読書の一冊になっており、再読のたびに高齢者に伺った話と辛かった当時のことを思い出します。