解き明かされる猪木プロレスの本質と様々なレスラー像
★★★★★
日本人レスラーとの対戦を収めたDVDで。
対戦相手は、ストロング小林、坂口征二、大木金太郎、ヒロ・マツダ、国際はぐれ軍団(R・木村、A・浜口、寺西)、
前田明、長州力、藤波辰巳、マサ斎藤(巌流島決戦)、G・ムタ、そして天竜源一郎。
インタビュアーの永島勝司(元新日本プロレス取締役)の問いに応えて、
すべての対戦相手に猪木がコメントしている。
興味深いのはその中で、猪木のプロレスの根源が語られて、非常に貴重な記録となっていることである。
猪木は、プロレスは「(相手の技を)受ける」ことで成り立っていて、そこが他のスポーツと一番違うところである、という。
つまり、1,2分で勝てる相手も、相手の力を120%出させたうえで、客に最高の満足感を与えた上で勝つというのが、猪木のプロレスなのである。
リングの中で戦っているうちに、
「ベータ・エンドルフィンが溢れて、この試合で死んでもいい。足を、手を折られてもいい」という気持ちになり、
足や手を極められているときに「折ってみろ」とか、
ラリアートを喰らったときに「首を折ってみろ」という言葉が自然に出る。
それは脅しではないのだが、その言葉を浴びせられた相手は、極めているのにもっと極めろと
いわれるわけで、心が折れてしまう。
G・ムタ戦では、「ムタは人間性の持つ二面性というものを、ムタと武藤で表しているのだが、
その重大さに気がついていないのではないか」と猪木はいう。
猪木は自らの試合の監督であり演出家であり、主役である。
観客は、猪木の人生観に裏打ちされたこの「劇」に魅せられ、のめり込んでいく。
そこには強い自己肯定と他者肯定がある。
社長、興行主としては疑問符がいっぱい付く猪木であったが、「ショウマン」としては紛れもなく
超一流であった。