言葉と肉体
★★★★★
13編の短編の中で特に面白かったのは『旅の墓碑銘』である。作者がボディビルを始める前に書かれたそれは、「肉体」としての「外面」を見つめる中に、アジア的「混沌」が見出される。その話自体興味深いものであるが、それとは別に構成が奇妙であって驚かされる。例を挙げると、菊田次郎が書いた原稿を読む「私」がその彼に感想を述べるくだりがあるのだが、その場面ですら原稿の一部に含まれているのではないかと思われる。ともあれ、『ラディゲの死』が「言葉」と「肉体」の齟齬がテーマだと言われる以上、その前に書かれた『旅の墓碑銘』を精読しておくことに越したことはない。
文学的価値を抜きにして、『箱根細工』はよく出来た話だと思う。内面の葛藤を織り込みつつ、最後まで緊張感を持続させる展開とコントラストを成す滑稽なオチを見る限り、作者の数少ないリアリズム作品と言ってもおかしくはない。
最後の『施餓鬼船』は小説家の葛藤を描いた作品であるが、これは『ラディゲの死』のテーマである「言葉」と「肉体」の問題について、「芸術」と「俗」の観点から迫ったものであると考えられる。作者は『葉隠入門』の中で、「文学」と「芸術」についての考えを述べているが、その一つの考え方が表された作品と言えよう。
17歳から31歳までの若かりし頃に書かれた作品であるが、絢爛な言葉で包み込む筆致であることに変わりはない。