気品溢れる琴の音が・・・
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高知の一絃琴奏者である人間国宝、秋沢久寿栄がモデルの小説で、作者は小説にするつもりより、一絃琴に接した感動からこれに魅せられ、例によって何事もやって見ないと気のすまない性格とて、一絃琴を手に入れ、12年間書き続け、書き直ししていたそうだ。
自費出版だった「櫂」が太宰賞をとり、筑摩書房より出版、その後講談社からも話があり、2年くらい掛かるがそれでも良いということで、出されたのが直木賞になった「一絃の琴」だ。
明治から近年までの苗(モデルは島田勝子)という一絃琴女流奏者と、その弟子である蘭子との芸道上での相克の物語だ。この蘭子のモデルが秋沢久寿栄で、第1〜4部のうち第4部は蘭子に当てられて終わる形だ。
跡目争いで苗から離れた蘭子だが、一度も弾いたことのない名曲「漁火」を弟子時代の譜本の最後に見付け、独自の奏法に完成させるくだりでは、一度この曲を聴いてみたいものだと思った。
苗が有伯に「お師匠様、私の不心得はどのようにでも直しますきに、どうぞお弟子にしてつかさいませ」と述べるような気品のある土佐弁の美しさは琴の世界にぴったりだ。宮尾作品はどれも飽きない語り口で、最後まで読ませるが、本作品も例外ではなかった。