明快かつ本質に迫る洞察
★★★★★
美術が好きな人にも、美術に興味を持った人にも、ともに手にとってほしい本。
西洋美術の概説書というのは、扱う年代の広大さと紙数の制約から、
各時代の様式の説明と個々の芸術家、作品のカタログ的な紹介にとどまっていることが多いように感じます。
ところが、本書はなかなかどうして、そこから一歩、二歩と踏み込んで、
そもそも美術とは何か?芸術家と作品、および鑑賞者との関係とは?線vs色彩、
等々、美術の本質に迫る設問にたいして、抽象的な言葉を使わずにそれでいて明快で歯切れよく解説されています。
たとえば、ルネッサンスについて著者は、人間性が宗教から解放されたバラ色の時代などと単純にとらえません。
『ルネッサンスは強烈な刺激に富むが、住みにくい時代であったに違いない。
しかし振り返ってみれば、そうした緊張こそが、世界がかって経験したことのない想像力の横溢を呼んだのであった。
中世否定の上に立った古典時代への復帰の情熱が、
古代の再生ではなく、近代文明の誕生としての新しい時代をもたらしたことは、一つの大きな逆説であった。』
こうした視点を持つことによってはじめて、
ボッティチェッリの≪ヴィーナスの誕生≫が、異教の女神を描きながら、キリスト教と対立することなく、官能性をたもって受肉している理由、
また、誰よりも古典彫刻を愛したミケランジェロの嵐のような制作の人生、を理解することができるのではないでしょうか。
現代美術の解説もすばらしい。
欲を言えば
★★★☆☆
惜しむらくは日本語の翻訳がまずく、ひどく読みづらい。
ほとんど直訳のような文が多く、修飾語と被修飾語の関係が一度読んだだけでは、すんなり頭に入ってこない。美術の本なのに半分以上が白黒の図版なので文章で理解する必要があるし、小項目の字体が場所によって画家の名前であったりそれ以外だったりなどの編集の不手際も手伝って、読み続けるには忍耐が要る。
確かに美術以外の古典などの知識も必要な、学生向けのちょっと難しい本ではあるが、だからこそ翻訳はプロに任せて美学の先生方には監修に徹して頂きたかった。ほとんどキリスト教世界の美術しか扱っていないにもかかわらず、原題でhistory of art for young peopleと言ってのけるアメリカ人らしさが鼻につくとはいえ、いい本だとは思うのでもったいないと思う。
揺るぎない説得力と冴え渡る文章のキレ
★★★★★
入門書としてはやや高度な内容の本ですが、作者の書く文章の、キレがとにかく素晴らしい。美術史全体を概観した本のため個々の画家に当てられる行数には限界があるにもかかわらず、簡潔で率直、これ以上はないというくらい絵や画家の質を的確に捉えた文章で、非常に説得力があります。説明が「底をついている」ので、何度読み返しても勉強になる、とても質の高い美術書です。
ただし、一見非常に綺麗に見える図版には要注意です。この本は見た目は高級そうな紙を使用していますが、よく見ると絵によっては若干変色していたり、重要な人物が暗く塗りつぶされているものもあり、印刷の状態は決してよくありません。絵を参考にする場合は、他の本を利用した方がいいでしょう。
良質な美術史の本
★★★★★
西洋の美術史を概観するための最良の書である。記述は要を得ており、豊富な図版も適切に配置されている。価格も手ごろだし、ページをめくるだけで楽しい本に仕上がっている。