しかけやしくみでこのように進化したという考え方では到底解けない謎が、すがたかたちには残されている。三木成夫の考えている人間の物語は、壮大なロマンに満ちていて、とても科学という枠では捉えきれるものではなさそうである。それはひょっとすると、日本人の自然観に根本があるのでは無いだろうか。
　胎児の顔の変化から想像をはせる進化の歴史は、必ずしも納得のいくものではない。しかしながら、そういう想像こそが人間には必要な物語であるように、僕には思える。遠い生命の原型が海底の奥で、何億年という歳月を世代を重ねて揺られていた物語は、人間に影響を及ぼさないわけが無いのかもしれない。三木成夫のいうことは、西洋の科学的ではないのかもしれないが、人間の真実をついている。それは学問の大きな力である。なぜなら真実というものは、人の心に届いてこそ本当の意味があるからである。感動を与え人間を揺り動かす力を自然が持っている。その真実の前に、人間の姿があるのである。すがたかたちを見ることは、何より学問の王道なのである。